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#スイーツ男子の失恋はラムレーズンの熟した悲観と未来への調和
"いらっしゃいませ。お一人様ですか?"ファミレスの受付に立つ明希は店員の声を聞いて、奥の客席の方を見て誰かを探している。平日の朝8時前の店内の客は少なく見覚えのある後ろ姿はすぐに視界に入った。
「連れが先に来とって、、」
「お待ち合わせですね、どうぞ」
窓際の4人掛けのテーブル席に一人でモーニングメニューを食べているマコト。目玉焼きの黄身にフォークを刺すとじわっと溢れてぐちゃっと白身と混ぜて口に運んだ。肘を着いて黙々と食べるマコトの目の前に何も言わずに座った明希。
「んっ、来たか。早速そっちから連絡くると思わなかったけど」
「長引かせたくないねん。早よ終わらる」
周りは仕事前のサラリーマンかパソコンを開いてコーヒーを飲んでいたり、早起きして散歩帰りの高齢夫婦が朝食を食べている。そんな中この若者男子二人組は少し浮いていた。お互い顔は笑顔ひとつなく仲の良い友達関係には到底見えない。
「まぁそんな焦らず、何か食べれば?いいよ奢るよ。ほら学生は大変っしょ、ファーストフード店のバイト代も微々たるもんだろうし」
「いらん、長居するつもりはないんや。これから授業やから見せるも見せたらすぐ行く」
「知ってるよ。だから学校の近くのここまで来てあげたんじゃん。俺って優しくない?」
「こっちはニートのあんたみたいに暇ちゃうねん」
朝の爽やかなファミレスの雰囲気に不釣り合いな売り言葉に買い言葉が続く。朝の通勤通学の会社員や学生達が窓越しに忙しく二人の間を通り過ぎていく。マコトの目の前のお皿が空っぽになり端にフォークを置くとカチャンッと金属の音が響いた。
「んで?何かいいネタあるわけ?」
「そうや。もしかしたら使えるかと思って」
スマホを取り出した明希は写真フォルダを開いて画面をタップし写真を送信した。テーブルの上に置いたマコトのスマホが何度も連続で鳴り、開いて確認すると明希からの写真が10枚以上届いている。
「これは?」
「一昨日撮ったんや。二人がホストクラブから出てきたところや」
「この店は知ってる。大我が以前働いてた職場だ。もう完全に辞めてるはずだけど何でまたここに、しかも滝川暖と?」
「せやけど入る時はこっちの写真のこのホストらしき奴と一緒やったわ。あんたの元カレは後から入ってしばらくして一緒に出てきた感じや」
スクロールしながら写真を1枚ずつ確認するマコト。店の前で立ち話をしている写真は少しお互いの表情が険しい。その後抱きしめ合う写真は恋人さながらの熱い抱擁 だ。
万人向けに作った配信の動画とは違う二人のリアルが写った写真には嘘偽りはない。マコトと明希にとっては見たく一番無い瞬間だろう。
「ふーん。写真はよく撮れてるけど、要はこれをどう使うかだろ。何か考えがあるのか?」
夜とは言え派手な歓楽街の灯りは写真の二人をしっかり照らして、後から出てきた星夜の顔までバッチリ写っている。離れた場所から多少の距離感はあるが近頃のスマホの高性能カメラは十分なクオリティーを映し出す。
「暖は未成年や。こういう夜の店に出入りしていることが知られたら配信も続けられへん、せやからこれをSNSにあげたらどうやろって」
「は?計画ってそれ?」
「そうや」
「何も知らない様だから教えとくけど、ホストクラブは未成年でも入れるの知らないわけ?」
暖を早く取り戻したいと気もそぞろな明希は調べる余裕も無くしている上に全く関わりのない夜の世界の事なんて知るはずも無い。18歳以上ならホストクラブへの出入りは可能な事をこの時マコトに言われて初めて知った。
「これだから無知は困る。大阪にもホストクラブはあるだろ、それとも山奥に住んでたのか」
「っッそんなん興味ないし、知らへん!」
「当然お酒飲んだらアウト。けど店内の写真は無いんだろ。それに年齢公表ってしてたっけ?学生であることさえ隠してたと思うけどな」
「何や、、無駄足やったか」
ガックリと肩を落として窓の外を見た明希。どうしたらいいか確実な計画なんてものはない。とにかく何とか配信を辞めさせる糸口を掴みたい。そんは行き当たりばったりの行動は不発に終わってしまった。
マコトは明希の目先と同じ窓の外を見て、行き交う人の流れをじっと見ていた。その時マスクをして歩く男性が通り過ぎて目で追った後、何かに気付いて再びスマホの写真に目を向けた。
「いや待てよ。これでもアリかもな」
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