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#スイーツ男子の失恋はラムレーズンの熟した悲観と未来への調和②
手に持って一枚の写真をじっと眺めるマコト。指で画面に触れ拡大したのは大我と話している暖の顔。カメラの方向に顔が向いて一番表情が見える写真だった。
「はなからそんな煩 わしい事しなくてもよかったんじゃん」
「どういう意味や」
「滝川暖はなんでずっとマスクしてたと思う?」
「それは、、顔出しあかんって意味やろ」
「つまり顔を見られたくないわけでただ顔をSNSに晒せばもう出られなくなるんじゃないか?」
確かに暖の内向的で人見知りな性格を考えてみれば大勢の前に素顔を晒すなんて無理だ。マスクで顔を見せない事で何とか配信が続けられていたんだろう。
「せやけどー…そんなことしたら暖はどうなるんやろうか?」
「自分で写真撮ってSNSにあげようってさっきの威勢はどうしたんだよ」
「俺は顔は隠そうと思ってたんや」
「それじゃ生ぬるい。庇 ってる場合?」
顔を出す事で批判や暖に害が及ぶかもしれない、さらに受験勉強に支障きたすかもしれない。明希にもそんな僅かな良心は残っていて躊躇する言葉をはくと容赦ないマコトの言葉が飛んでくる。
「アンタさ滝川暖が好きなんだろ?」
「やっ、ちゃう!好きとは一言も言ってへんやろ。俺は暖の事を思ってー…」
「はいはい。そうゆうのって一番セコくない?相手の為にとか言っておいて罪悪感から逃げて。結局は好きな相手を取られたくない自分の為じゃん。カッコつけんなっての」
「なっ、、お前に何が分かんねん!!」
声を荒らげた明希の声量は店内中に響き、客も食べる手を止めて声の方へ反応する。キッチンから何事かと出て来たスタッフか心配そうな顔で二人に近づいて来る。
「うるさい、ムキになるよな。これだから関西人は嫌いなんだよな」
「何も知らんのに知ったように言うからやろ」
「否定しないってのは認めてるのと一緒じゃん」
マコトの言うように違うと否定すればいいだけ。暖を好きな事もすべて見透かされているのにそうだと言えない。男を好きになったのなんて初めてで周囲の目も当然気になる。
なのになんで平気でマコトも大我も世界中に何の躊躇 いなく関係を晒せるのだろうか。
そして暖も今ではそんな奴ら仲間に加わって、本人は困惑しているどころかホストクラブに自ら喜んで行っている程だ。
"あの……お客様"とスタッフの若いバイト店員の女子に遠慮がちにをかけられたマコトは優しい顔を向けた。
「うるさくしてしてすいません。ちょっと友人と話がヒートアップして、けどもう出ようかと思ってるのでお会計します」
「あっあのー…もしかして配信者のマコトさんですか?」
今は配信者と名乗っていいのか曖昧だがマコトが頷いて"そうだよ"と言うと女子店員は視聴者でファンだったと過去形で答え握手すると、勤務中なのも忘れ飛び跳ねて喜んだ。
こんな奴にもファンなんて存在はいるんだと、冷めた目でやりとりを見ている明希。きっと暖にもこんな風にファンだと言う人達がきっといて大我と暖が親密な程、配信を観て喜ぶのだろう。
「くだらん、、学校行くわ」
「まだ話終わってないけど」
マコトを無視して店を出て行った明希。予備校までは歩いて数分、いつもより早めに着きそうな時間だがきっとまだ暖は来ていない。何知らぬ顔で一日一緒にいるのも心が疲弊するし、正直今までのような勉強への集中力や気力も失い欠けていた。
目の前の信号機の黄色い点滅が赤に変わり横断歩道で足を止めた。ポケットから出したマコトへのメッセージ画面を開いて動かす指に迷いはなくなって"写真頼む"と短い文を送信した。
時間が経つにつれ暖との距離を感じ始めた。授業終わりに家へ行き一緒に勉強する事も無くなり、変わりに画面に映る暖の横には違う男がいて笑顔を向けている。
"以前の暖を取り戻しまた俺の隣に"
信号が青になって歩道を大股で周りを人達を追い越して歩く。鳴ったスマホを見るとマコトからの返信で同じく短い一文だけ表示された。
"では今夜お楽しみに"
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