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#スイーツ男子の失恋はラムレーズンの熟した悲観と未来への調和③
「おっはよん!」
「、、何や。いつみか」
ファミレスから学校へ向かう明希はイヤホンから流れる音楽に混ざってから聞こえた声に足を止め振り返り片方のイヤホンを外した。いつみのいつもと変わらぬ陽気な姿を確認するとイヤホンを戻して再び歩き始める。
「ちょっと何やとは何よ。感じ悪〜!朝から哀愁漂う背中ちゃってさ」
「別に普通やけど」
「でも分かるよ、この時期に余裕な予備校生なんているわけないもんね」
「ほな何でいつみはいつも元気なんや?」
「ん?そうね、強いて言えば推しの力かな〜」
昨今よく聞く"推し活"そんなもので勉強が捗 り活力になるなんて全く理解出来ない。そう鼻で嘲笑いながら、いつみの歩幅に合わせ歩く明希。
「何やそれ?ほなその推しとやらが代わりに試験受けてくれるんか」
「嫌み言わないでよね!やっぱ今日機嫌悪いでしょ?」
「現実見ろって言うてんねん」
少し強くイライラ口調になったのは、暖の行動と重なって夢を見ているようなふわふわした発言が癪 に触ったから。いつもならこの程度で気分を害したりはしないが、今は何でも噛みつきたくなるようなメンタルになっていた。
「現実って何よ?言っときますけどね。私はメンヘラじゃないから!推しは存在してるし、配信でコメント読んで受験頑張れって言ってくれたもんね」
「そんなん誰にでも言うやろ、言うだけはタダやからな」
「大我はそんなんじゃないし」
聞き間違いか?それともあの二人のことが離れない脳内で聞いた違う名前を変換してしまったのか?いやたまたま名前が被っただけだ。明希は足を止めて両耳のイヤホンを完全に外して再度確認で聞き返した。
「大我、、誰やそれ?」
「明希に行っても分かんないだろうけど。男同士のいわゆるカップル配信者。高校生の時から観ててんの」
まさかこんな近くに憎きライバルの相手をファンで好きだと言い張る人がいるとは。それにきっと暖がその現パートナーである事もこの様子では気付いていない。
いつみが何年も好きな推しは、今一緒に授業を受けて一緒に帰る仲良いクラスメイトだって知ったらどう思うか。かなりショックを受けるか、逆にドラマのような展開に歓喜するか両極端のどちらだろう。
大我と言う男は一体どれだけ俺を振り回すんだと、明希はいっそのことこの場で全ていつみにぶち撒けてやりたい衝動にもなったが堪えた。
「そんなん見とるから浪人すんねん。見んと勉強しとったら、今頃大学行けとったんちゃうか」
「あのね!浪人したのお互い様でしょ」
「ちゃう、俺は真面目日勉強してやなー…」
「あ〜もういいです〜もう聞かないー!」
二人は小競り合いを続けながら歩き学校に到着すると教室に向かう。廊下を歩いて途中にある指導室のドアガラスから担任の見えた。声までは聞こえないがその向かいにいる生徒と話しているようだ。いつみが何かに気づき細いドアガラスに近づく。
「どないしたんや?」
「ん?いやあれ、暖じゃない?ほら担任と喋ってるのそうだよね」
明希もその言葉に引っ張られ、いつみの頭の上からひょっこり顔出して中覗いてみる。確かに後ろ姿からして暖に間違いなさそうだが、指導室で話す事と言えば進路や成績の事だと当然考えるのが普通だ。
「確かに暖やな」
「何か手元にあるけど見えないよね」
何か冊子の様なパンフレットの様な色や写真が載った紙がわずかに見えるがよく分からない。
今さら改めて希望大学の情報を再度見るのもおかしい話だからそれ以外に考えつかない。
二人は縦に重なりあったまま生徒がたくさん通る廊下だと言うのを忘れてブツブツ話ながら目を凝らして見ていた。
「お前ら何やってるんだ」
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