87 / 89

#スイーツ男子の失恋はラムレーズンの熟した悲観と未来への調和⑦

 ドアを開けるとそこには大我が立っていてニコリと笑顔を見せた。連絡もなく突然の訪問に驚いたが、折り良く今はこの家には暖ひとりだけしかいない。  『大我どうしたの!?』  「あ〜さっきまで吉岡さんと会っててね。手土産に新作ケーキ頂いたから暖に届けようかなって」  『わざわざ家まで?』  「少し前に携帯に連絡したけど繋がらなかったから』  『あ、、充電切れちゃって。さっき家に帰ってきたばかりで気付かなくてごめん』    大我は玄関から少し身を乗り出して家の中の状況を見た。遅い時間だからと躊躇したが暖の部屋の電気だけが付いているのを外から在宅確認をしてからインターホンを押した。  『ん?あっ今、家族は誰もいなくて。だから遠慮しないで上がって大丈夫だよ』  「そうなんだ、じゃあ少しだけお邪魔しようかな」  大我はバイクを邪魔にならない場所に移動させてスイーツの入った紙袋をぶら下げて中に入った。暖はしっかり玄関を施錠したのを確認して大我を2階の自分の部屋に連れて行こうと階段を一段上がった所でピタリと足を止めた。  『あっ、待って!一分!ここに居てっ、!』  「何で?」  『へ、部屋が散らかってるからっ』  「そんなの別にいいー…」  大我の言葉を無視してダダダダッと勢いよく階段を上り切りバタンと部屋のドアを閉めた。思い出したように急いで部屋に戻った理由は、部屋の散らかりが恥ずかしいと言うのも一理あるが、それが本来の目的ではない。  『あっーっと、、これどこに隠しておこう』  机の上に堂々と広げられた学校のパンフレットとレビューノートを1つにまとめて部屋中を見回す。いつも閉まってる引き出しはもしかして開けられるかもしれないしクローゼットの中はパンパンだ。  ふと目に入ったベッド。下に10cmほどの隙間が開いていて何も考えずに滑らせるように中に隠した。よしっ!とひとまず見られたく無い物を回避させて、パッパッとベッドの上の布団を整えたり何とか中に呼べる状態にした。  『お待たせーいいよ、上がっても』  「何?なんか良からぬ物でも隠し持ってたんじゃ無いの〜」  『違っ、そんなんじゃ無いから!』  階段上から下に向けて焦りを隠し話しながらトントンッと顔をニヤリしながら大我がゆっくり上がって部屋に入る。  「ふ〜ん。前回来た時と変わってないね、布団カバーの色がグリーンになったくらい?」  『そう!よく覚えてるね』  「まぁホストやってるとそうゆうどうでもいい事を記憶しておく能力が身についてさ。変化に気づいてくれるのか女の子って嬉しいみたいで」  『いやっ男の僕でもちょっとキュンとしたよ!』  乙女の顔をしてそう言った暖に近づいてほっぺに触れた大我。ホストが姫に色恋するのは仕事の一貫だけど、今は本当にただ自然に初めてこの部屋に入ったあの日の事が頭に巡って言葉に出た。  あの日学校から帰ってくる暖をこの部屋で待っていた時は、部屋の主はどんな人だろうと興味を駆り立てられたのを思い出す。  正直無謀だと思ったこの挑戦は意外にも視聴者には受け入れられた。もちろんそこだけを切り取ってみれば大成功だが、いつまで続けられるかタイムリミットが脳裏にチラつくのは確か。    「あっはいこれ。さっき言った吉岡さんからの預かり物。まだお店に並ぶ前の試作段階だって。食べたら暖の反応が聞きたいって」  『僕の食べた反応を?』  「うん。吉岡さん暖の事、気に入ったみたい。それにあの動画だいぶ再生回数が回って好評だし、chériにも動画観たお客さんがたくさん来てありがとうって」  「僕なんかで役にたてて嬉しいな」  『それと吉岡さんから新しい仕事もらったんだけど、、暖はちょっと、、嫌がるかも』  大我は声の張りがなくなって小声で言いづらそうに思慮深く言った。これはまた前のようなスイーツ配信とは違うんだろうとは察したが、吉岡ならの案件ならスイーツにまつわる事柄しかないだろう。  『僕が嫌がるって?吉岡さんからの依頼なら頑張るよ!気にしないで何か教えて』  「じゃあ言うね。それが、、来月に吉岡さんの専門学校でオープンキャンパスがあって、それにゲストで2人で出てくれないかって」

ともだちにシェアしよう!