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#スイーツ男子の失恋はラムレーズンの熟した悲観と未来への調和⑧
オープンキャンパスのゲストと聞いて一瞬、自分の行動や考えを見透かされているのかと肝が冷えてベッドに下に隠したパンフレットの方をチラッと横目で見た。
『ゲ、、ゲストって?みんなの前に立って話するって事?』
「うん。だからあまり俺は乗り気じゃなくてね。だって前にはカメラじゃなくて人だよ。いつもの撮影とは訳が違う」
過去の経験などからして大我が話上手で人前に出る事なんで朝メシ前だなと言う事は分かる。だとすると気が乗らない理由は、映像の中だけの恋人の"Natsu"の存在を人前に出させることに躊躇しているのだろう。暖もそれは大我の口ぶりから感じ取った。
『……もしやるとしても、、僕なんか学生さんに何を喋ればいいのかな?』
「暖が今まで食べてきたスイーツ愛を話せばいいよ。その点では俺なんかより詳しいし話せると思う、だから吉岡さんも依頼してきたんだし」
『大我はどう思う?』
「うーん、やっぱり暖にはこうゆうの早いってな言うか別に無理にー…」
『やっぱり僕とは画面の中でしか恋人のフリは出来ないって事だよね!!?』
口調を強く大我の言葉を遮るように言った。驚いて暖の顔を見ると不貞腐れて少し悲しげな表現も含んだ顔していた。
「暖、、?どうしたの?」
『どうして一緒にやろうって言ってくれないの?少しは大我と距離が縮んだと思っていたのに、僕はこの部屋で初めて会った時と何も変わらないつっ!!?人前で恋人って名乗るのは恥ずかしい!?』
今までこんな風に攻撃的な暖を見た事のない大我は訳が分からず、とにかく暖の気を沈めようと肩に触れようとしたがスッと交わされ背中を向けられた。
『僕の事何とも思っていないなら優しくしないでよ、、』
「何か気に触った?俺はただ仕事を無理強いさせたくないし、人前に立つのは苦手だって言ってたから」
『……僕はやりたいよ。皆んなの前で大好きなスイーツを語ってずっと書いていたレビューを見せて隣にいる人はー…恋人だってちゃんと言いたいよ』
大我に向けた背中は丸くなっていき徐々に力が抜けて床にぺちゃんと座り込んだ。学校や友情や家族、配信や偽恋人、なんだかこの数ヶ月で今まで波風立てず生きてきた中でこんなにも苦悩した数ヶ月はなかった。すごく疲れたし精神をすり減らした。それがここにきて一気に爆発してしまった。
だけど生きていると言う実感がした。誰かに求められて誰かを求めて葛藤すると言う事が人生歩んでいる事だと覚えた。
だからもう昔の自分には戻りたくないしこの先は自分に嘘をつかず誤魔化さずいたい。
『、、ごめん。僕ね約束破っちゃったんだ』
「約束?」
『配信を始める時に決めた時にルール決めたでしょ?覚えてる?』
「もちろん覚えてるけど」
暖を丸めた背中のまま床を見ながら意味ありげな数秒間の沈黙の後、呼吸を整えてゆっくりと立ち上がって振り返り大我の顔を見た。
この部屋で出会ったあの時は自分と真逆の人生を歩んでいる大我を見て羨ましく思った。
出会い方こそ突飛拍子もなかったけれど生まれて初めて本気で人を好きになって"恋"と言う物を経験した。
"期間限定の偽恋人役"のルールは守れそうに無くてごめんね。
『僕ね大我の事好きになってしまったみたい』
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