93 / 93
#スイーツ男子の失恋はラムレーズンの熟した悲観と未来への調和⑬
バイクの排気音が止まったのは予備校から300メートルほど離れたコンビニ。そういえば起きてから何も食べていなくて授業前に空腹を満たそうと食べ物を手に入れる為。
暖は店内に入るとすぐにスイーツコーナーに飛びついて悩むのさえ楽しみながら品物を手に取る。
『大我はどれがいいと思う?』
「どれって朝ご飯を買うんじゃないの?」
『うん、そうだよ。これが朝ご飯!』
「ちゃんとご飯食べないと勉強に身が入らないじゃん」
『だってもう勉強はしなくてもー…あっ!』
「ん?勉強しない、、って?」
何か言いかけて辞めた暖は口を強く噛んで瞑った。手にしたスイーツの袋を元の場所に戻して"あっちも見てみよ"と誤魔化して離れた。
まだ大我には学校のことは伝えていない。大我ならこの決断に賛成してくれると信じているし恋人なら隠し事なく包み隠さず話すべき。
でももし反対されたら?と言う不安がないわけでもなく口にするのを躊躇してしまう。
レジには朝の出勤前の会社員や学生客が数人並んでいて2人は最後尾列に並んだ。2人は肩が当たるくらい自然にくっ付いて会話をしながらレジの順番を待っていた。
"絶対そうだよ。だってほら"
"ホントだ!間違いない。髪の色も大我と同じだし。マジ本物!?隣のHALの顔も写真と同じっぽくない?"
"じゃあやっぱり予備校生もホントなのー?"
並ぶ列の横の棚の隙間から聞こえたヒソヒソ話をする声は暖の耳に入って横目でそちらを見る。スマホを見ながら2人を確認する様子の若い女子グループ。暖は咄嗟に顔を下にして更に大我に近寄った。
『ねえ、大我。もしかして気づかれてるかも』
「ん?気付かれてる?」
『横の棚の後ろにいる女子達が僕の名前を言ってたんだ。しかも顔が同じとか、、予備生だとかも』
「知り合いとかじゃないの?」
『っ違うよ。全然知らない人!』
「だって配信の視聴者は暖の顔も知らないし、ましてや学校なんて知らないはずでしょ」
『だから怖いんだ……ね、お店出よ』
「あ、ちょっと暖!買い物は?」
手にしていたスイーツを横の棚に置いて大我の腕を引いて逃げる様にお店を出ていく。人目を避けるように大我のバイクにも見向きもせず素通りしてしばらく歩いて路地裏に入った。
暖はさっきの女子グループが後をついて来てはいないかと心配しながら大我の腕を強く掴んで身を隠すように小さく身体を丸めた。
『はぁ、もう大丈夫かな?』
「暖どうしたの?」
『何だか僕の顔も知られてるみたいで、それに学校の名前も言ってた!大我を見て本物だって話してたから、きっと視聴者のファンの子だよ!どうしよう!バレちゃたんだ!?』
「暖、落ち着いて」
その時暖のカバンの中のスマホが鳴ってビクッと肩を揺らす。2人は顔を合わせて不安そうにゆっくり画面を見ると"いつみ"と表示されていた。
「誰から?」
『、、学校の友達。いつも一緒にいる子』
何となく過った不安。急ぎの用事でもあれば別だが大抵はメールを送ってくるのが普通。それにこの後学校ですぐ会う予定にも関わらず電話してくるのは何かあったのかと疑ってしまう。
「電話出ないの?」
『あ、うんー…ちょっと待ってね。あっもう学校このまま向かうから。大我も用事あるでしょ?もう行っていいよ、学校すぐだし』
「そう、もしまた何かあればすぐに言って」
『うん分かった。ありがとう』
そのままバイクで大我は立ち去り、一度着信が切れたいつみの番号にかけ直すとワンコールが鳴り終わる前にすぐに電話に出た。
『もしもし』
「暖?いまどこ?」
『今?あー…学校に向かってるとこ』
「私、今学校の前なんだけど教室入る前に話せる?」
『別にいいけど、何かあったの?』
「しらばくれるつもり?私だって超驚いてるけどこれでも冷静を装って話してるんだからね」
『いやっ、その、何の話だか全く……」
「え、もしかして本当に知らないの?」
『知らないってー…何が?』
「暖の顔と名前と学校名、SNSに出てるっ!」
ともだちにシェアしよう!

