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第11話

ベッドの上で独り項垂れていたら 脱ぎ捨ててあったズボンから着信を知らせる音がして 俺は慌ててスマホを手に取る。 — もしかして・・・亮一く・・・ん? そんな淡い期待をして。 番号を教えてもねぇのに。 だから・・・ スマホの画面には当たり前だろ?と言わんばかりに 岡田の名前が表示されていて 俺の淡い期待は呆気なくかき消される。 「西野・・・今、何処?」 「あ・・・」 「あってお前・・・忘れてただろ?」 「ちょっと、野暮用が出来て・・・」 「は?マジかよ・・・で、何時帰ってこれる?」 「今直ぐでるから・・・一時間もかかんねぇと思う」 「わかった。  じゃ、待ってっから・・・  頼んだの出来てんだよ・・・な?」 「気に入るかどうかはわかんねぇけど・・・一応、描けてる」 「流石、西野!ありがとさん」 「じゃ、ちょっと待ってて」 「駅に着いたら電話して迎えに行くから」 「迎え?いらねぇって。  いい加減、そう言うのやめろよな」 それだけ言うとスマホを切った。 学生時代から変わらない俺に対する岡田の過保護っぷりに 思わず笑みがこぼれちまう。 けど・・・ 独りベッドに残されて項垂れていた俺にはそれが癒しになった。 SEX後の重いカラダを引き摺るように俺はシャワールームに向かい 先生・・・亮一くんの香りを俺の肌から洗い流すと 散らばった服をかき集めそれを身に着け部屋を出た。 この時、ジャケットを忘れなければ・・・ あんな事にはならなかったかもしれない。 まさか・・・ 亮一くんがポケットに連絡先を残してくれてたなんて この時の俺は知らなかったから・・・ フロントにカードキーを返し外に出れば もうすっかり暗くなっていた。 何度もイかされたカラダは限界にきていて 流石の俺もこの気だるさには勝てずタクシーに乗り込む。 運転手に行く先を伝えた俺は目を閉じる。 心地の良い揺れに何時の間にか眠ってしまっていたみてぇで 「お客様、着きましたよ」 そう運転手に声をかけられハッと目を覚まし俺は メーターに表示されている料金を支払いタクシーを降りた。 家には灯りがついており 父ちゃん達が帰って来ていることを示していて 俺はシャワーを浴びた時に硝子に映っていた 首筋に付けられたキスマークの痕を思い出し 外していたシャツのボタンを首元までしっかりと留めなおしていた時 初めて俺はジャケットを忘れてきた事に気づく。 — 今から取りに行くわけにも行かねえし・・・   また、明日連絡入れるか・・・ とまた、ここでもミスを犯しちまう俺。 今までSEX三昧だったなんて親には知られたくねぇし しかも、棄てられた男に・・・ 親父達もよく知ってる家庭教師だった亮一くんに抱かれてたんなんて・・・ 絶対に知られたくねぇ。 俺は気持ちを切り替えるために一つ、深呼吸をしてから玄関を開ける。 「ただいま・・・」 声をかければ 「真、何処行ってたの?お土産買って来たわよ!」 リビングからひょこっと顔を出した母ちゃんの元気な声。 何時もと変わらない母ちゃんの声に俺の心が解れた。 「お、ありがと!ごめん、英雄に頼まれてるもんがあっから  先にちょっと、渡してくる」 そう母ちゃんに声だけかけて俺は2階の自室にあがり 机の上に置きっ放しにしてあった何枚かのデザイン画を手に取り下りると 階段下には母ちゃんが待ち伏せしていて・・・ 「英雄くんとこ行くならこれ持ってって!」と土産の菓子箱を渡される。 「留守の間、あんた、ちゃんと食べてた?」 その母ちゃんの言葉や心配そうな顔にも癒されてしまう俺。 それだけ・・・ 今日の亮一くんとの再会と久しぶりのSEXの後 また・・・ 独り置いてけ堀を食らったのはきつかったんだと知る。 「あんた、細いんだか母さんがいなくてもちゃんと食べないともたないわよ!」 そう言いながら 「英雄くんによろしく言っておいてね!」と笑う母ちゃんに見送られて 俺は隣りん家に向かった。 岡田ん家は2階の岡田の部屋しか明かりがついておらず ベルを鳴らすとドタドタと階段を降りる音が聞こえて ドアが開いたかと思えば 「電話して来いって言っただろ?  駅から独りで歩いて帰ってきたのか?」 また、過保護な岡田の発言に笑っちまう俺。 「何だよ、それ!ガキ扱いすんなよ!」 言えば 「ガキよりヤベェよ・・・お前、自覚ないだろ?」 訳わかんねぇことをぬかすから 「何だよ、それ・・・」 少し怒った振りをして土産の菓子とデザイン画を 岡田の胸の前に突き出してやった。 「何?コレ?」 土産のことだろう・・・ 受け取った箱をひっくり返して見てる岡田に 「親父達、旅行に行っててさ、土産だって」 答えを差しだしてやると 「悪いな・・・よろしく言っといて」 申し訳なさそうに笑う岡田。 「デザイン画・・・そんなんでいいか?」 今度はちょっと心配そうに眉を下げて言えば 「お!いいじゃん!  流石、西野・・・やっぱ美大出てるだけあるなぁ」 なんて岡田が素直に感心した言葉を返してくるから 俺は恥ずかしくなっちまって 「これくらいなら、誰にでも描けるって」 困ったような顔をして笑うと 「入って茶でも飲んでくか?」 そう誘われたけど・・・ 「悪い!明日は授業の準備とかあるから朝早いし・・・」 俺が断れば 「明日、一本早いの乗るのか?」 訊かれて 「そーかな」 明日は・・・ なんとなく独りで駅まで歩きたい気分になって曖昧な答えをしてしまったが 幼馴染って言うのはいいもんでそれを感じ取ってくれた岡田は 「じゃ、これありがとうな!  また、社でどうだったか報告するから」 笑ってくれて。 来て直ぐ帰る俺を見送ってくれた。 そして事件は起こる。 自分が撒いた種だから仕方ねぇんだけど・・・ マジで俺の詰めの甘さを思い知らされる。 亮一くんとのSEX 。 恋人同士ではないSEX 。 担任をしてる生徒の父親とのSEX 。 俺・・・ 何てことをやっちまったんだろう。 今日、潤にどんな顔して会えばいいんだ? そんなことが頭ん中をグルグルまわって 早朝の誰もいない美術室で悶々としていた。 いい加減、そんな悶々としてる自分に嫌気がさしてきた俺は 昨日ホテルに忘れてきたジャケットの事を思い出し スマホを取り出しホテルに電話をする。 まさか・・・ 理事の・・・ 俺の不倫相手の息子でもある 事務局長の芹沢さんが聞いてるなんて知らずに。 「・・・では、今夜、受け取りに行きますので。  ・・・はい、西野です。  よろしくお願いします」 そう言って電話を切れば背後から 「どうされました?」 突然の声に驚いて振り返れば 「西野先生、今朝はお早いんですね」 ニッコリと笑われてバツが悪くなり 「すみません。  何時も、ギリギリですもんね、俺・・・」 なんてごまかせば 「いえ、遅刻はされてませんから良いですよ。  それより、立ち聞きしてしまって申し訳ないんですが・・・・  受け取りに行かれるとか・・・どうされました?」 芹沢さんは柔和な笑みを浮かべてそう訊いてきたので 俺はたいして深くも考えず ホテルに忘れてきたジャケットのこと それを帰りに取りに行くことを話した。 すると 「それなら・・・代わりに受け取りに行きましょうか?  昼過ぎに用事があってそのホテルの近くまで向かいますので」 そう言われて・・・ 俺はその芹沢さんの言葉に甘えてしまった。 この時・・・ ホテルの名を口にした瞬間 芹沢さんの表情が一瞬、怪訝そうに曇ったことを俺が見逃していなければ・・・ あんなことにはならなかったのかもしれない。 否・・・ 俺が芹沢さんの好意に甘えなければ良かったんだ。 そうすれば・・・ 亮一くんと俺との関係がバレルことはなかったし あんな・・・ 辛い想いをしなくても済んだはずだ。 俺はマジでバカだった。

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