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第17話

あれから・・・ 俺が眠る部屋に櫻田が訪ねて来ては ベッドに横たわる俺を覗き込み — 先生、大丈夫? — 先生を守れなくってごめん・・・ 何度も・・・ 何度も・・・ 今にも泣き出しそうな瞳で俺に囁く。 その懺悔の言葉にどう答えればいいのかわかんねぇ俺は 寝た振りをしてやり過ごしていた。 そんな日々を数日過ごしていると身体に走る痛みも和らぎ ベッドに寝たきりだった生活からなんとか起き上がれるようになり ベッドヘッドにもたれてなら少しの時間、座っていられる様になった。 すると・・・ 今までの櫻田からは一変し 芹沢さんとの事には一切触れず 明るく話しかけてくる櫻田。 — 先生、甘いもん好き? — これなら、食べれる? 朝に夕に・・・ 厭きもせず俺の部屋に何かしらの食べ物を手にしてやってくるようになった。 俺自身、あんな姿を見られちまった羞恥心もあり 櫻田から向けられる笑顔に耐えられなくなっちまって 亮一くんからの — ここじゃ、子供達の目もあるし   鎌倉の別荘に移ってゆっくりしないか? ・・・と、その申し出に首を縦に振った。 正直、そう言ってきた亮一くんの本音が 何処にあるのかわかんなかった。 俺が高熱と痛みで臥せっている間に 俺の知らないとこで話が進められちまってて 意識がハッキリした時には亮一くんとこの顧問弁護士とやらが 何枚にもなる書類を持ってきて その弁護士に薦められるままその書類にサインをさせられ 心配そうに見つめる亮一くんに言い包められる様なかたちで 何時の間にか学校も退職していた。 こんな・・・ 担任になって直ぐに辞めちまうなんて 他の親御さんたちがやれ責任感がないだのと文句を言ってるだろう。 その顔が浮かんで溜息が出そうだったが 流石にあそこに戻るのは俺も無理だろうとは考えていたから 芹沢さんが俺から誘ってきたと言ってるらしいと聞かされた時 俺は・・・ それでいいんじゃねぇかと思った。 表向きは違ってもそれが退職の理由になるんなら 芹沢さんも理事もホッとする筈だ。 二人の体面をそれでなんとか出来るなら 俺は・・・ それでいいんじゃねぇかと思った。 それに・・・ 芹沢さんも亮一くんが好きだったんだ。 亮一くんと芹沢さんは親戚だって言うんなら きっと・・・ 俺なんかよりもっと先に亮一くんのことを・・・ なら・・・ 俺はあれくらいされても当然だ。 親戚だったとは知らないと言え 芹沢さんから亮一くんを奪い そして父親である理事とも関係を持っちまってたんだ。 俺は・・・ こんな罰を受けても当然の報いだと思う。 だから・・・ 俺は亮一くんが — 真くん、本当は違うんだろ?   真くん、本当のことを話して・・・ そう何度訊かれても俺から誘ったとしか答えなかった。 それが・・・ 傷つけてしまった芹沢さんへの俺のせめてもの懺悔だったから。 亮一くんは腑に落ちないって顔してたけど こうなった経緯には亮一くんの残したメモが要因でもあるからか 言いたい言葉をグッと堪えて — 真くんがそう言うなら・・・   もう、これ以上は何も訊かない。   だけど・・・   学校は退職してもらう。   真くんの家には連絡しておいた。   安心して、心配されないように旨く話しておいたから。   そう言って — 俺をこれ以上、不安にさせないで欲しい。 なんて・・・ 俺を棄てた癖に そして・・・ 再会した、あの日・・・ 俺の気持ちなんかお構いなしに勝手に抱いた癖に 心底心配してますって顔して俺を見つめるんだ。 バカな俺は・・・ その亮一くんの顔に その亮一くんの声に 手酷く振られたことも忘れちまって — 二人だけの時間を過ごそう。   もう、真くんを離さないから・・・ そんな甘い亮一くんからの愛の囁きに酔った俺は 鎌倉にある別荘へ櫻田達がいない間を見計らうように 亮一くんが運転する車で向かった。 まさか・・・ 夏休みになった櫻田が俺を探して来るなんて考えもせずに。 その櫻田に・・・ 亮一くんに抱かれる姿を見られちまうなんて考えもせずに。 また・・・ 誰かを傷つけちまうなんて この時の俺は・・・ 再び手に入れた亮一くんとの温かな胸の中で 与えられる快感に酔いしれて気づかなかった。 俺は・・・ また・・・ バカな失敗をしちまうんだ。 心に傷を負っちまってたから・・・ 記憶がどこか曖昧だったっから・・・ そんな言い訳なんかで許される筈もない失敗を。

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