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再びの夫婦─檻─ 13
なんて素晴らしい言葉なのだろう。
蔑 まれたのを聞いて、何度目かのドライをする。
ふー、ふーと呼吸が乱れる。
「クリスマスの時、脚立から落ちたのはわざとだったの、ご存じ? 魔が差したとも言うかしらね。とにかく! アンタのことをいじめたくなってね、手にかけてやりたくなったの。上辺だけ謝罪したけど、あの愚息、思惑に気づいたみたいで、あの後すぐに解雇されたわ」
わざとらしく眉を下げて、ため息を吐く彼女の言葉に、辛うじての記憶が蘇る。
そういえば、あの日以来彼女のことを見ていなかったような気がする。
他の世話役に訊いてみたら、「家庭の事情で辞めざるを得なかった」というような答えが返ってきた。
だから、あの時はそれで納得していたが、まさかそのようなことがあったとは。
「……ふーん、そう。そんなことをしたわけね」
葵人の背後のすぐそばで聞こえてくる、地を震わせるような声音。
背後が見れないぐらい恐怖を感じたようで、身震いする葵人を慰めるように、小刻みに腰を震わせてくるものだから、敏感なままの身体には、その程度でも甘美な声を上げてしまう。
そんな葵人はよそに、彼女はしまったというように両手で口を塞いだ。
そのような行動に兄は鼻で嗤った。
「たしかにあの家の愚息は愚息だ。だが、お前もすぐにボロが出るのなら、同じくらい愚か者だ。さっきの葵の言葉を遮ったことも含め、お前は──"赤い籠"行きだ」
目を瞠る彼女の両脇に、背後で控えていた使用人に抱えられる。
「何をするのよ!」と言っている時には遅く、さらに女性であるため、男性である使用人にはその抵抗は虚しく、引きずりながら部屋から去っていった。
その少し後、連続で達した葵人の顔を、自身の方へ向けさせると、その唇に口付けた。
先ほどとは違う軽めの口付けに、「もっと」と自ら口付けようとした時、「離せッ!」という叫び声が聞こえた。
その声につられて顔を向けると、瞳孔が開いた。
髪が全体的に金髪で、目つきの悪そうな男性が、後ろ手で縛られるらしい、背後にいる使用人にやや引きずられながらも、出来る限りその手から逃れようと暴れていたのだ。
まるで猛獣のようだ。まだ躾のなってない獣が、葵人達の前に頭を掴まられ、座らせられた。
さっきの元世話役とは打って変わっての態度に、呆気に取られていたにも関わらず、知らず知らずのうちにその者をもっと近くで見たいと、前のめりになっていたが、両足を限界までに開かれている手にがっしりと掴まれている上に、さっきより激しめに腰を揺らすものだから、思ったよりも大きい声が出てしまった。
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