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理不尽な現実 10

その日は一日中泣き続けていたものだから、兄が心配して、ずっとそばで何も言わずに頭を撫で続けていた。 そうして泣き疲れ、知らぬ間に寝に入ってしまったらしく、次に目を開けた時には、兄の姿はなかった。 「に、いさん……?」 一日中そばにいたこともあって、突然いなくなった不安に駆られ、重たい身体をどうにか起き上がらせ、周りを見回す。 けれども、葵人の目には薄暗い部屋に頑丈な檻が設置され、自分一人しかいないことを再認識させられることとなった。 「兄さん……どこに、行ったの……?」 寝る前にあれほど泣き尽くしたというのに、また目に涙がじんわりと浮かび、視界を滲ませていく。 すると、そんな時だ。部屋の障子が開く音がしたのは。 咄嗟に涙を拭いて、その音の方向へ目を向けた。 部屋が薄暗くとも分かる、すらりとしたシルエット。 間違いない。あれは。 「葵、おはよう。昨日は泣き疲れて、急に寝ちゃったみたいだけど、よく寝れた?」 座敷牢を潜ってくるなり、そう言って笑いかける兄の穏やかな雰囲気に、また違う意味で泣きそうになってくる。 こちらに歩いてきた碧人は、手に届く範囲に座ったかと思うと、手に持っていたらしいお膳を一旦置いて、葵人の目元をそっと指先でなぞる。 「やっぱり、あんなに泣いていたから、腫れちゃっているね。ご飯を食べさせてあげた後、冷やしてあげる──っ」 「兄さんっ!!」 兄の胸に飛び込む。 背中に手を回した後、頭上から息を呑むような声が聞こえ、頭を撫でられた。 嬉しい。 「……どうしたの、葵……?」 静かに、けれども、優しく問う声に泣きそうになるのを堪え、途切れ途切れに言う。 「……目を、覚ましたら、兄さんが……いなく、て……っ、不安に、なったの…………」 言葉にしたら、そう自覚し始めてしまい、気づけば、碧人の胸の中で泣いてしまった。 すすり泣く葵人に、「そう、だったんだね。ごめんね」と言った。 「葵に温かいご飯を食べさせてあげたくて、取りに行っていたんだ。起きる間に戻ってこれるかと思っていたけど、目が覚めてしまったんだね……」 「……うっ、ん……」 「生理中は、心が安定しないというから、不安にさせてしまったね。男の僕には、なかなか理解がしにくいものだから、見落としてしまった。本当にごめんね」 やたら"男"を強調する兄に、「僕だって男だよ」と反射的に反論しようとした時、「でもね」とくいっと、顎を掴まれ、上げさせられる。

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