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理不尽な現実 11

「昨日、起きた時にも言ったけど、その呼び方じゃないって言ったよね」 にっこり。深く笑みを浮かべる兄の表情が、葵人の目には恐怖で青ざめる要因となった。 だから、今の自分では兄を「兄さん」という呼び方以外でどう呼んだのか分からないのだ。 だが、そのような言い訳は通用しない。 「僕の言ったことを聞けない葵は──お仕置き、だよ」 ぞわり、と総毛立つ。 底なしか歯をかち鳴らせる。 微笑んだままの表情を崩さない兄が、顔を近づけてくる。 何をされるのだろう。何をされても、拒んだら、さらに酷いお仕置きをされるのだから、ただ受け入れるしかない。 回していた手に力がこもる。 怖い。怖い。怖い。 唇と唇が重なる。 そこで限界を感じた葵人は目を閉じた。──が。 「……?」 リップ音が聞こえた直後、すぐに唇が離れていった。 驚いて、目を開けると、やはり笑みをたたえたままの兄が、葵人のことを見つめていた。 「今はこのぐらいのお仕置きだけにしてあげる。葵人の体調を優先にしないとね」 「……ど、う、して……」 「今が一番感染しやすい身体にもなっているからだよ。それでしてしまったら、母体に悪い影響が起きかねないから。それとも何? 誘っているの……?」 「あ、いや……その……」 頬が赤くなっていく葵人に、「可愛らしい反応」と頭を撫でてくる。 「でも、この期間が終わったら、今日の分の罪は償ってもらうから。きちんと受け入れる準備もしておいてね」 「……え…………」 一瞬にして顔が冷めていく葵人の頬を、軽くキスをしてくる。 結局は、この期間であるから優しいだけで、そうでなければ、昨日と同じ兄のままなんだ。 だとしたら、この期間が永遠と続けばいいのに。 そうしたら、子どもを作らずに済むことだってできる可能性があるかもしれない。 けど、これが来て辛いのは、大量出血と頭痛と腹痛と、あらゆるところが同時に不調を来たすから、一日でも早く終わって欲しいものなのだ。 八方塞がり。 やはり、自分には選択肢がない。 「さて、ご飯を食べようか」 放心状態になりかけている葵人を布団から下ろし、それを半分に畳むと、あった場所に葵人を自身の膝上に横向きに座らせ、食べさせていく。 促されるがままに、口元に箸を持っていく一口分の料理をゆっくりと咀嚼していると、「やっぱり、食べる気力がない?」と心配した声で掛けられた。

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