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理不尽な現実 12
まさか先ほどの、この期間が終わったら、お仕置きされることに怯えているだなんて言えるはずがなく、「あちこちが痛いの……」と代わりの答えを口にした。
あながち嘘ではないので、これに対しては怒られないはず。
実際に兄は疑うような素振りは見せず、かえって心配させたらしく、「そうだよね。葵は特に酷いから」と腹部辺りを優しく撫でられた。
「けど、きちんと食べれるだけ食べておかないと、後々大変だからね。それに、鉄分をしっかり摂らないと」
そう言って、ほうれん草のおひたしを食べるよう促してくるのを、仕方なしと言ったように食べていく。
精神的に食べる気が失せているが、やはり食べるしかないのかと諦めた面持ちで、喉に流し込む。
このままでは、昨日みたいに戻しかねないし、それがきっかけでお仕置きが増えてしまう可能性がある。
そう思うだけで気分が落ち込んでしまうから、出来るだけ考えるのはよそうと、目の前の次から次へと食べさせていくのを従って、食べていた時、ふと、あることを思い出した。
「あの、に……じゃなくて……。食後に、薬を飲みたいのだけど……」
「薬、って?」
「僕、あちこちが痛いからそれを和らげるために薬を飲みたいの。もしあったら、飲みたいんだけど」
「そんなこと、どこで知ったの……?」
身体が震え上がった。
「どこでって、それは……」
はた、と口を噤んだ。
言われて、そういえば、どこでそのようなことを知ったのか。
兄が散々言っていた、兄以外の愛してしまった人の元に行ってしまった時に、知ったのだろうか。
だがしかし、そのことを少しでも憶えていないのだ。
ここにいた時は、ただ痛みに耐えるのみだったから、ここで知ったわけではない。
「前もそうだけど、僕だけを考えて欲しいから、本も与えなかった。それなのに、いつ、どこで知ったの……?」
少しずつ低音になっていくのを耳で、恐ろしい雰囲気を肌で感じる。
早く何か当たり障りのないことを言わないと、これが終わった後、お仕置きが増えてしまう。
早く何かを。
「……が、学校で知ったの。授業でそのようなことを言っていたなって。あの時はよく分からなかったけど、自分がこうなって、どれほど薬の必要性があるのかって。それで、覚えておいて、いたの……」
兄の顔がまともに見られなかった。
あまりにも怖い視線が、終始ちくちくと感じるのだから。
そのせいで、冷や汗がすごいし、違う意味での腹痛も感じる。
さりげなく腹部辺りをさすっていると、「……そう」と呟く声が聞こえたが、その発した声はいくらかは柔らかい。
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