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理不尽な現実 13

「……さすが、僕の愛していた人。そういうことも覚えていたんだね」 棘を刺すような言い方に、チクリと胸の痛みを覚えたものの、こちらに向ける柔らかな表情と、撫でられたことで中和された。 ところが、「けど」と撫でる手が止まったことで、表情を強ばらせることとなる。 「……このことでのお仕置きはしないけど、代わりに薬も僕に飲ませてね。それで、帳消しにしてあげるから」 「う、うん……」 なんだそういうことか。 と、思ったりもしたが、それはそれで何かありそうで、一安心とも言えず、怖々とした返事をしてしまった。 「ところで、葵。さっきからお腹辺りをさすっているみたいだけど、お腹、そんなにも痛いの……?」 つい、手が止まる。 「あ……うん。……今日は特に酷いみたいで……」 「そうなんだ……」 労わるように葵人の手に自身の手を重ねてくる。 その時に、ぴくりと指が動いたものの、それに対して兄は何も言わず、「尚更、薬を飲まないとね」と葵人の手ごと撫でてくる。 それのおかげか、少しだけ痛みが和らいだような気がした。 気づけば、頬を緩ませていた。 「そういえば。葵、起きてからお手洗いに行ってなかったよね」 目を開いた。 「僕としたことか忘れていたよ。というよりも、僕が来たなり、求めてくる葵のせいでもあるけどね」 「…………っ」 腹部が、きゅうと締め付けられる。 この時も、お仕置きと言って、無理やり抱かれるのと同じぐらい嫌いなことなのだ。 一人で勝手にさせてくれるのなら、別に問題ない。高二の頃のように当たり前に使われているトイレではない所でさせられ、使い慣れない羞恥心があるものの、慣れてしまえば、どうってことはない。 問題はどんなに拒んでも、兄が。 「お手洗いしに行こうか」 「ま、待って……っ」 「その時に、一緒にタンポンを替えようね」と横抱きしながら、お手洗いに連れて行こうとする兄を立ち止まらせた。 安堵、は出来ない。やってしまった。 「葵には、拒否権はないって言ったよね?」 「あ……あぁ……」 極寒の地に追いやられたかのように、身体中が異常なぐらい震え出す。 この様子だと、きっと。 「この期間が終わったら……分かっているよね……?」 より一層近くなってしまった兄の、嫌になるぐらいの冷たい表情。 見たくないのに、視線を逸らしても罰が増えてしまいそうで逸らせない。

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