67 / 122
懐妊 2
ふと、目を開ける。
ぼんやりとしていた視界が徐々に晴れてきた際に見えたのは、見慣れてしまった、薄暗い座敷牢の天井部分。
いつもと変わらない光景に、いつ自分が寝たのだろうと考えていると、視界に愛しい人が顔を覗かせる。
「……葵。起きた……?」
優しげに目を細めた彼に、たまらなく愛おしく感じて、その静かな夜のように名前を呼んでくれる唇に、唇を重ねたい気持ちが強くなっていた。
未だに身体が火照っているせいで、性欲に似た気持ちになり、普段はそこまで積極的ではない行動が出てしまったのだろう。
「葵。嬉しい報告があるんだ」
頭を撫で、そのまま頬に滑り、細くて綺麗な指先に擦り寄せていると、碧人はさっきよりも声を弾ませて言う。
一体、何の報告が。
何も思いつかない葵人に対して、笑みをより深めた碧人は言った。
「──葵のお腹の中に、赤ちゃんが出来たんだ」
「…………え?」
擦り寄せていた手が離れ、布団の上から腹部辺りを、これでもかと愛おしく撫でる碧人の手を見つめていたが、意識をどこかに置いてきてしまったかのように、葵人は全く頭に入らなかった。
彼の口から、何を言ったの?
そう心に思っていたことが口に出ていたらしい、「もう一度言うね」と言った。
「僕達の子どもが、葵の中にいるんだよ」
「僕の中、に……」
「そうだよ。まだ三週間目みたいだから、実感はないかもしれないけど、これから大きくなってきて、実感も、そして、母親としての自覚もしてくる。僕も父親として、二人のことをより一層大事にするから。だからね、葵。二人で大切に育てていこうね」
身を屈め、腹部に手をやり、もう片手は葵人の頭辺りを抱きすくうと、頬に口付けをされる。
信じられない。
今、自分の中には、碧人と愛し合った結果が身篭っているという。
しかしそれは、碧人の妄言なのではと、彼の発言に疑いを持ってしまった。
たしかに、自分には子どもを産める器官はある。とはいえ、今の状況では、全くもって確証がない。
「生理も発情もしばらくなかったから、そうだろうと思っていたよ」
葵人の頬に、今度は頬を擦り寄せてくる碧人の発言に、血の気が引いた。
言われてみれば、下腹部が痛むような疼きと全身の不調を、しばらく感じていなかった。
この部屋にいると、時間の感覚がなくなってしまい、そのような考えをしなかった。
まさか。そういうことだったなんて。
ともだちにシェアしよう!