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懐妊 3

「……信じられない……」 「そうだよね。でも、毎日のように愛し合っていたのだから、いつかはそうなるよ。葵は、産める身体なのだから」 「……怖い……」 「大丈夫だよ。僕がいるから。とはいえ、慰めることしか出来ないけど」 「……こわい、こわい……」 「大丈夫。大丈夫」 「うそ……うそ……」 葵人を起き上がらせ、自身の胸に頭を預けさせると、彼は優しく頭を撫でてくれたが、震えだした身体は一向に収まることはなかった。 それから日が経つにつれて、碧人から教えてもらったつわりというものが、どんどん酷くなっていった。 最初の吐き気と熱っぽさから始まり、時間が経てば終わるかと思っていたそれらの症状は、日を増すごとに強く現れ、さらには、食べていないと気持ち悪さを覚える症状が出てきていた。 けれども、食べても食べても戻してしまうため、葵人はこれから先も、想像を絶する症状が増え続け、生きているのが辛く思うのではと、不安な毎日を送っていた。 「……葵、食べたくない?」 布団から起き上がり、お粥を掬った匙を口に運ぼうとしていた手が止まった。 身体中が火照り、頭がぼーっとしてしまっているせいもあり、反応が遅れながらも小さく頷いた。 「ほんとは、食べたい……。けど……」 「戻してしまうから、気にしているんだよね? そんなこと気にしないで。つわりは仕方ないのだから」 「でも、碧人さんに、迷惑をかけてしまう……っ」 「迷惑だなんて、少しも思ってないよ」 お粥を畳の上に置いた碧人は、泣き出してしまった葵人のことを抱きしめると、「大丈夫。大丈夫」とあやすような声で慰めてくれようとしていた。 大丈夫じゃない。この楽しく食事が出来ない症状がいつまで続くのが分からなくて、不安でいっぱいなのだ。 熱っぽさもそうだ。これのせいで、一日中怠く、普段の熱のように起き上がることさえ億劫であるし、寂しくも感じられ、しかも、碧人に対して嫌な感情が出てしまうのだから、もうすでに妊娠している自分に嫌気が差していた。 妊娠が発覚した時よりかは、少し腹部の膨らみが目立ってきたかのように思えた。 しかも、その理由は。

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