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懐妊 17
首を捻り、考えていた。
昔から周りに何故、同じ読みで違う漢字なのかと問われたことがあった。
葵人本人としては、昔から慕っていた人と同じ読みで嬉しいなと思うだけで、そこまで深く考えたことはなかった。
けれども。一度だけ碧人に聞いたことがあったはず。
その時、碧人がこう言った気がする。
「……産まれてから、死ぬ時まで、心も身体も互いの物であるから……?」
途切れていた記憶を探るように、思い出しながら答えると、碧人はみるみるうちに顔を綻ばせた。
「そうだよ。ずいぶんと昔に言ったのに、よく憶えていたね。さすが僕の妻だ」
頭を優しく撫でてくる碧人に、「あの時はきちんと分かっていなかったよ」と自身のことを謙遜しつつも、愛したい人に褒められて、満更ではないというような表情を見せた。
「僕達のご先祖であった、実の兄弟でありながらも愛してしまったことがきっかけで、このような形になってしまったけど、そのおかげでこうして、葵と添い遂げることが出来るのだから、嬉しいことこの上ないよ」
「碧人さん、大袈裟すぎだって……」
くすくすと笑いながらも、見るからに嬉しそうに笑いかけてくれる碧人に、こうであって良かったと思ったが、果たして、本当にこれが幸せなのだろうかという疑問も、何故か後から湧いてきた。
今となっては完全に忘れてしまった、一生償うこととなった罪となったきっかけ。
産まれてくる前から、決められた運命に逆らうことが出来ない、腹の中にいる子ども達。
自分がこの家の外に出て、触れ合ってしまったからそう思うのだろうか。
けど、そう思ったとしても、檻の中から出ることさえ出来ない自分が、どう運命に逆らえることができよう。
愛おしいと言いたげに、腹の子ども達と共に抱きしめてくる旦那の腕の中、浮かない顔をし、悩みの種をばら蒔いてしまうのであった。
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