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出産 1

「いつき……あさひ……たつ、き……」 いくつもの仮の名前を呟いて、撫でていた。 あれから名前が決まってないうちに、いつ産まれてもおかしくない時期に差し掛かったと、碧人から聞かされた。 もう、産むことになってしまったのか。 未だに憂鬱な面持ちでいる葵人は、一人、ため息を吐いた。 このような人の元で産まれ、育てられた子どもが楽しく、幸せになれるとは思わない。 産むことは自分にしか出来ないから、産むのは頑張る。その後は、碧人が育てて欲しい。 どうせ自分は、碧人なしでは何も出来ないのだから。 「……?」 不意に、後孔から温かいものが流れた感覚があった。 常に晒してある臀部の下には、動くこともままならないため、いつでも排尿出来るようにと、ペットシートを敷いてくれていた。 それが何なのかとこの目で確認してみようとするが、やはり腰を浮かすことも一苦労であるので、そのまま見ずにいたが、この間でもその排尿のようなものは勝手に流れている。 それから、しばらく経ったぐらいだろうか。ズクズクというような、腹の奥底から痛んでくるのを感じた。 それが段々と強い痛みが感じられ、腹部を抑えて、やや前屈みとなった。 その時に、畳に布が擦れるような音が聞こえ、「あ、おとさ……っ」と脂汗を滲ませながらそちらを見やると、使用人が慌ただしく部屋から出て行くところだった。 碧人は何かに忙しいらしく、葵人の元に来ることは限りなく少なくなった。から、代わりに使用人がずいぶんと前からいたらしいが、つい碧人だと思い、助けを求めてしまう。 「い……っ、い、た……っ」 さっきよりもさらに強く痛んでいき、歯を食いしばって耐えようにも耐えられず、ボロボロと涙を流して身悶えていた。 やだよ。痛い。碧人さん……っ。 「葵っ!?」 酷く驚いて叫ぶ、会いたかった人の声に、ゆっくりと顔を上げた。 今まで見たことがないような表情で、こちらに駆け寄ってくる彼の姿に、少し安堵をした。 「……あ、……と、さ……」 「陣痛が始まったんだね。これから産む準備をするから」 陣痛の意味が半ば理解していないながらも、「産む」という言葉に血の気が引いた。 この時が来てしまった。 「や……っ、こわ、い……こわ……」 「大丈夫。こうやって手を繋いでいるからね」 繋いでいた手をぎゅっと、強く握りしめてくれる。 それだけで心が和らいた気がして、弱々しくも握りしめ返した。

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