85 / 122
出産 2
「碧人様。準備が整いました」
「分かった」
その時も、片時も離さず見つめていた碧人が淡々とした口調で返事した後、「葵。隣に布団を用意したから、そこに横になろうか。立てる?」と微笑んで言うのを、小さく縦に首を振って、足を震わせながらも、やや引き気味な前屈みで立つ葵人の両手を持って、支えてくれた。
「ゆっくり。ゆっくりだよ。そう。うん、上手」
一歩、一歩、ゆっくりと足を踏みしめて、碧人に腰辺りを支えられながらも、布団に横たわる。
その間でも内側から激しさが増していき、碧人の手を握っていないと、どうにかなってしまいそうだった。
「……あ、……ぉ……」
「うん。どこが痛い? 腰辺り?」
「腰も、おなか……っ、おしり、も……」
「そうだよね。さすってあげる」
碧人に身を委ねるようにやや横向きとなった葵人の腰辺りをさすってくるが、気休め程度にしかならず、呻いていた。
「葵様。足を失礼します」
「……ぇ……あ……っ」
足元にいた使用人が葵人の、片足ずつ両手で添えるように丁寧に立てたかと思うと、浴衣の裾を捲り上げ、股間が晒される。
短い悲鳴を上げたのも束の間、後孔辺りを拡げられるのを感じた。
「い、やぁ……。さわ、……な、…で……」
「大丈夫だよ。赤ちゃんの様子を見てるから」
よしよしと頭を撫でてくれながら、「深呼吸をしようね。僕の呼吸に合わせて」と顔を覗かせてゆっくりと呼吸をしてくる様子に、何とか呼吸をしてみせる。
「上手。上手」と梳くように撫でてくれる碧人に、葵人は疲れた表情の中に、嬉しさを混じえた。
「まだいきむ時ではなさそうですね」
「そう。まだ葵の中にいたいのかな……」
「や……っ! もう、出て……っ!」
今もなお続く痛みに涙が零れ、はぁはぁと短い息を吐きながら、「やだ、やだぁ」と駄々をこねる子どものように、ゆるゆると首を振った。
その間も変わらずに碧人が、好きな手と言葉で慰めてくれていたが、激しい痛みで打ち消されてしまう。
なんでもう、すぐにお腹から出ていってくれないの!
ふつふつと怒りが湧き上がり、無造作に碧人の服を掴んでいた手を、弱々しく腹部に添える。
「頭が出てきてますね。そろそろ、少しずついきんでみましょう」
「葵。お腹に力を入れて」
「ふ…っ、う……っ!」
撫でていた手を添えるように、腹部に当てる碧人の言葉に従って、腹部に力を入れようとした。だが、痛みが勝り、入れようにも入れられなかった。
ともだちにシェアしよう!