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出産 3
「だめ……っ、できない!」
「葵なら出来る。出来るよ、大丈夫」
「……う……っ!」
混乱しかけている葵人を慰めるように、腹部を優しく撫でる碧人に触発されて、恐る恐るながらも腹部に力を入れていく。
「順調に出てきてますよ、葵様」
「上手だね。焦らずゆっくりと力を入れて」
「ふ……っ、ん……っ!」
歯が痛むほど食いしばり、呻きながらもいきむ。
と、ナカを大きなものが通っていくのを感じた。
「あぁあ……っ! んぅ……!」
さっきよりも言葉にならないほどの激痛が走り、両足をばたつかせ、首を激しく振った。
「葵っ、落ち着いて」
「やだぁ! 痛いっ!」
「そんなにも暴れたら、赤ちゃんがびっくりしちゃうよ」
「痛いっ! 痛いっ!」
碧人の手から離れ、使用人が必死に掴んでいる両足を引き離そうと、さらに暴れる葵人に、「……仕方ない」と呟いた碧人が立ち上がった。
それでも気づいていない葵人は、足を振りほどいたのを好機に、暴れる。
と、すぐに片足を碧人に掴まれたことで、一瞬、暴れるのを止めた。
その隙に、縄を持っていたらしい碧人は、膝辺りを縛り、葵人から見て左側の檻の木に縛り付ける。
え、と思っている間に、右足も同様に縛り付けられる。
さっきのようには、動けなくなった。
「駄目でしょう? せっかくここまで順調に育った子達を無下にするつもり?」
「……あ…ぁ……」
「こうしている間にも、一人目の子が頑張って出ようとするのを、葵が出す手伝いをしないと死んでしまうんだよ。ちゃんとやって」
目の奥が笑ってない碧人に説得され、すっかり萎縮した葵人は食い気味に首を縦に振り、再び手を握ってきた碧人を合図にいきみ始める。
様子を窺っている使用人の指示のもと、呼吸を整えたり、いきんだりを繰り返していた。
「頭が出てきましたよ。あともう少しです」
全身はすっかり汗ばみ、荒い息を吐いていた葵人は、半ば意識がなくなりかけ、使用人の声掛けにまともに返事が出来なくなっていた。
それでも、「いきんで」という碧人の言葉に促され、力いっぱいにいきんだ。
その瞬間。
するりと、大きなものが抜けたのと同時に、甲高い声が部屋中に響いた。
「おめでとうございます。無事に一人目が産まれましたよ」
産声を上げている赤子を抱いた使用人が、見やすいようにと葵人に見せてくる。
達成感を覚えている葵人は小さく笑んでいると、「二人目も頑張りましょう」と赤子を脇にいたもう一人の使用人に渡した後、そう告げられたことで、絶望を抱く。
そうだ。まだ終わってないんだった。
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