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出産 5

その時。産声を上げる声が聞こえた。 一人目の子がまだ上げているのかと思ったが、今は使用人におくるみに包まれて、静かにしていた。 だとしたら、幻聴? かと思っていたそれは、二人目を抱きかかえていた使用人の腕の中にいた赤子からであった。 「あ……あぁ……っ」 ひくついた声を上げて、大粒の雫が流れ落ちる。 生きていた……! しゃくり声を上げて、涙を拭き続ける葵人のことを碧人は上半身を起こした後、何も言わずに抱き寄せてきた。 そのことさえも、大きな安堵に包まれていた葵人のさらに泣く要因となって、徐々に落ち着いていく赤子に代わって、腕の中で声を上げて泣く。 「ほら、葵。愛しい子ども達が、僕達の元へ来たよ」 その言葉を聞いて一瞬泣き止んだ葵人は、脇を見ると、二人の使用人に抱えられた双子が、それぞれおくるみに包まれて目の前に来ていた。 涙を拭いて、そのうちの一人に手を伸ばすと、自然と使用人から受け取る形となり、自身の方へと抱き寄せた。 腕の中で時々、もぞもぞ動いている新しい命。 一時期は壮絶な痛みから逃れたいと、母親としての責任を放棄していた自分が、今はこんなにも愛おしく思うだなんて。 「……手にかけようと思った時は、本当にごめんなさい。そして、元気に産まれてきてくれてありがとう、──(あらた)」 「それがその子の名前?」 頬を擦り寄せて、愛おしくなった我が子の存在を存分に味わっていた時、支えがなくなっていた碧人に問われ、 「そうだよ」と優しく微笑んだ。 「そして、碧人さんが抱いている弟の方は、(まこと)。名前の意味は……」 「葵……っ!?」 くらり、と急な視界のぐらつきと悲鳴にも似た碧人の叫びが聞こえたのと共に、布団へと倒れ込んだ。 出産の疲れが急に来たのだろう。抱きかかえている赤子の重みがなくなっていく気がした。 今までの償いをしようとしていたのに、何をしているんだろう。 葵人は水の中に入ったかのように、碧人が必死になって葵人の名を呼んでいるらしい声が、かき消されていくのを覚えつつも、瞼を閉じた。

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