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育み 1

その後、次に起きた時には、清められていた身体で布団に寝かされ、そして、右手が握られているらしいのを感じた時、葵人が起きたことに気づいた碧人が顔を覗かせ、安堵の表情を浮かべ、「お疲れ様」と額に口付けを落とした。 「あ、……と、さん……」 ぼんやりとした目で見つめ返すと、碧人は微笑み返してくれた。 それから、段々と目が覚めてきた際に、腕に赤子の重みを感じなかったことに顔面蒼白となって、辺りを見回そうとバッと起き上がったものの、力が入らなく、碧人の方へ倒れ込む形となった。 「ぼ、僕の……っ、あか、ちゃん……」 「葵。大丈夫だよ。葵の隣で寝ているから」 「……え?」 指を差した先、碧人がいるところとは反対側に、大きな籠の中にいる小さな二人がいるのが見えた。 そのことに、改めて自分が産んだことに実感をし、深い喜びを感じながら、頭を撫でてくる碧人に甘えて、再び寝に入った。 それから。小さな子達の子育てが始まった。 初めてのこと尽くしで、しかも、妊娠中からそのようなことを何一つ教わる機会がなかった葵人は、毎日どうしたらいいのかと戸惑う日々であった。 出産に立ち会った使用人らと碧人も率先と世話をしてくれて、ありがたくもあったが、母親として情けないと、自身のことを責めてしまうことも多くあった。 「……僕、やっぱり母親として失格だと思う」 檻の中で全裸となり、碧人に身体を拭いてもらっている時、ぽつりと呟いた。 出産後一ヶ月間は、湯船に浸かってはならないということで、だったら碧人が身体を拭けばいいという提案で、そのような形にしていた。 ちなみに、双子は使用人らに風呂場で、ベビーバスを使って淋浴をしているらしい。 湯船に浸かれずとも、シャワーで済ませればいい話なのだから、自身の手で双子を洗ってやりたい。 そう申し出たこともあったが、碧人は「出産してまだ疲れているのだから、使用人に任せればいい」とやんわりと断られ、今に至る。 「……どうして、そう思うの?」 拭いていた手が一瞬止まりかけたが、いつもと変わらない優しい口調で問われる。 「だって、子育てのこと何一つ分かってないんだよ。碧人さんの方が全然分かっていて、率先とやってくれていたりするし、僕が育てる意味なんてないんじゃないかと思って……」 じわじわと涙が滲んでくるのを、ぎゅっと下唇を噛んで堪える。 こうして、悔しくて泣きそうになるのも情けない。 何もかも情けなくて、もはやこんな自分は、いなくなればいいんじゃないかと思ってしまう。 跡継ぎの子を産む役割が終わり、こうして自分の手で育てずとも、他の人がやってしまうのなら。

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