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耐えきれない哀惜、檻猿籠鳥の矢先に 6

「──…………葵人?」 特に哀れな二人のことを想って嘆き悲しんでいると、不意に名を呼ばれた。 すぐに碧人が戻ってきたのかと思うぐらいに、非常に似たような声。けれど、やや高い声であったため、その考えは打ち消した。 呼ばれたのと同時に布越しが明るくなり、そのことに内心安堵していると、畳に布が擦れるような音がし、ビクッと肩が上がる。 それから、こちらに近づくにつれ、畳が沈むのを感じ、徐々に心拍数が上がる。 誰かが来る。 視界が遮られている葵人は、恐ろしくなって後退ろうとしたものの、両手が縛られているせいで上手く出来ず、もたもたしているうちに、吐息がかかる距離にいたらしい、布の後頭部の結び目が緩められる。 「葵人……」 消え入りそうな声で呼び、頬を撫でてくる相手を見て、瞳孔が開く。 胸辺りまである、前に垂らした長い髪を緩く結び、黒地に白く小さな花が散りばめられた華やかな着物を着ている女性であった。 が、その顔がどことなく、自分のことを置いていった人のようにも、そして、自分によく似ていた。 ついでに言うと、父にすらも。 これは一体。 「あなたは、本当に葵人なの……?」 ゆっくりと小首を傾げて聞いてくる女性のその仕草は、どこか妖艶で、どきっとしたものの、葵人を見つめる目が何か心配事があるかのような、物憂げで、葵人の心をざわつかせる。 緊張気味に頷くと、女性は寂しげな笑みを見せた。 「そう……。会えるとは思いませんでした。私のもう一人の息子……」 「…………ぇ……」 顔と顔が付きそうな距離であるのに、か細い声で聞き間違えをしたのかと思った。 「……あなたは……」 震える声で問うと、女性は口元を深めた。 「私は、幸成(ゆきなり)。桜屋敷行成が旦那の妻です。あなたから見れば、母親です」 開いた口が塞がらない。 碧人に地下らしい所に連れ込まれ、一人にされたかと思った檻の中で、自分以外の人がいるのかと思っていたその人物がまさかの。 「……母親は、僕が産まれた時に亡くなったって……」 「……そう、言われていたのですね……。そうですね……。兄の碧人の方もそうでしたが、あなた達を抱くこともなく、引き離されてしまいましたから、ただ跡継ぎを産むだけの、死んでいるのも同然の存在とも言えましょう…………」 頬を撫で続けていた手をふいに、背中へと回すと、弱々しく自身の方へと抱き寄せた。

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