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耐えきれない哀惜、檻猿籠鳥の矢先に 7
「元気よく産声を上げるあなた達のことを、こうして抱きしめてあげたかった……」
手先がひんやりとあまりにも冷たかったため、生きてないのかと思ってしまったが、触れるぬくもりが、抱きしめてくれる人がここにいることを示していた。
これが母のぬくもり。ずっと感じてみたかったぬくもりであり、あの子達にこの先も感じさせたかったぬくもり。
それを母の腕の中でずっと感じていたいと、目を閉じていたが、ふとあることが疑問になった。
「……お、母さん」
「嬉しい呼び方ですね。なんでしょう?」
「どうして、僕達のことを抱くことが出来なかった……のですか?……僕みたいに……ううん、身体が弱いのと関係、ありますか?」
今になって、父親や碧人と接する時のような口調で言えなく、どこかよそよそしい言い方で言ってしまった。
それでも、母の幸成は気分を害した様子はなく、今にも消えそうな声音で、「……それは」と言った。
「私が身体が弱いのは、産まれた時からであって、けれども、それでも必ず子どもを二人産まざるを得なくて……。あなた達を産んだ直後は、気を失ってしまったみたいで、その間に引き離されてしまったのですね……」
「そこまでする必要ってあるの? 僕はそのせいで、死んでしまいたいぐらいに悲しいのに……」
最後に見た二人の泣き叫ぶ顔が脳裏に浮かぶ。
あの時、痛いぐらいに抱きしめていれば。
思い返す度に、次から次へと後悔が募っていき、それが涙へと変わる。
「……私も、あなたのようにあの時は、酷いぐらいに悲しんで、行成様のことを責めたことがありました」
声を殺して泣き出していると、幸成は静かに言った。
「身体が弱いからという理由で、産まれた時からこの中で過ごしてきた私の、行成様以外に初めて触れた存在でしたから。……ですが、今思えばそれで良かったかもしれません」
涙が止まる。
代わりに緊張しているのか、鼓動が高鳴っていく。
これ以上は聞いてはならないという、無意識の本能なのか。
しかし、葵人はその先を聞きたいがために、躊躇っているらしい幸成を促した。
幸成は、紅を差した唇を開いた。
「……死期が近いからです」
幸成の言葉を理解するのに時間がかかった。
自分の言葉でも理解しようと、オウム返しで言うと、母は静かに頷いた。
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