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耐えきれない哀惜、檻猿籠鳥の矢先 9

幸成の手の中で、葵人の熱が放たれる。 さっきの碧人の時は、軽く達せられただけで、嫌になる物足りなさを感じてしまったが、碧人以外の手によって淫らな声を上げることになってしまったが。 気持ちいい……。 はぁはぁ、と短い呼吸を吐いていると、幸成は白い液が付着した手を見つめていた。 「ふふ……これが葵人の……」 そう言って、それを唇に近づけたかと思うと、ぺらりと舐めた。 「美味しい……」 うっとりとした目で幸成は、葵人によって汚れた手を見つめる。 ここに来て以来の、幸成が初めて生きていると思える表情に、葵人は双眸を見開いた。 それから、舌で自身の手を綺麗にしていくさまを見て、再び下半身の熱が帯び始める。 「葵人、どうしたのです……? そんなにも見つめて……」 「あ、……ぇ……」 「母に自身から射精()したものを舐められて、嬉しく思っているのです……?」 「ち、ちが……」 「でしたら、舐めてごらんなさい。きっと、素直にそう思えますから……」 「いや、いやっ……──んぐっ」 制止も虚しく、汚れた細くて長い指を口に入れられる。 それでも拒もうと、細い手首を両手で掴み、舌で外に出そうとしたが、それを上手く利用され、舌を絡め取り、指を綺麗にさせられる。 「あぐ、んぐ……、ふ、んっ」 「自分から射精()したもの、美味しいでしょう……?」 「はぁ、……あ、ふぅ、ん、んッ」 美味しいなわけがない。今すぐにでも吐き出したいくらいに、味わいたくないもの。 「──何をしているの」 突如として響く、聞き慣れた第三者の声。 二人は肩を震わせ──葵人は特に、底知れぬ恐怖に全身を震わす。 口から指が離れ、幸成が檻の向こうに顔を向いたのを機に、葵人も恐る恐ると振り向く。 そこにいたのは、葵人のことを置いていった旦那と、その隣には連れ戻されて以来、久しぶりに見る父親の姿。 「行成様!」 またも初めて聞いた、子どものように弾ませた声で、おぼつかない足取りで父親の元へと歩を進ませる。 「行成様、ご覧くださいませ。葵人の大人の証です。抱くことすら出来なかった小さな我が子が、こんなにも立派に育って……。私、とても嬉しく思います」 「ああ、良かったな、(ゆき)。でも、そんなに興奮したら、身体によくない」 「いいのですよ。あともう少しの命ですから。……それに、あなたと交わる時は、もっと激しく燃え上がるではないですか」 「……そうだったな。あとで、二人きりの時に愛してあげよう」 「ふふ。楽しみですわ」

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