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耐えきれない哀惜、檻猿籠鳥の矢先に 10

檻越しで互いの手を取り合う仲睦まじい姿を思わず見ていると、「葵」と低い声で呼ばれたことで、ぴくっとし、意識をそちらに向ける。 「……僕が去り際、何て言ったか覚えてる?」 「……ごめんなさい、覚えてません……」 「そう。僕の話はどうでもいい、と」 「そ、そういう、わけじゃ……」 「そういうわけでしょう? だから、僕以外の人に、自身の身体を触れることを許した。そうなんでしょう?」 「……これは……」 蝶番の耳障りな音をさせながら扉を開け、入ってくる恐ろしい存在に、少しでも距離を取ろうと思いたくなった。が、そのようなことをしたら、またさらに怒らせてしまう。 葵人の前にしゃがんだ、表情が抜け落ちたかのような凍てつく顔から目を逸らしたくなる衝動に駆られる葵人の顎を掬った。 「お母様に、自身の精液を飲ませることまでしたんだ……。美味しかった……?」 「…………」 「その無言は、肯定とみなす」 「あ、ちが……──」 「……僕達だけの場所で、たっぷりと飲ませてあげる」 「あ、いや……っ」 瞬間、肩に担がれ、急に宙が浮いたことに、酷く驚いていた葵人が後から自身の状況に気づいた頃は、檻から共に出されたところだった。 その際に、少し明るい檻の中の畳に愛しい我が子達からもらった、大切な贈り物を落ちていたのが目に入り、しかし、今さら気づいてもそれを取りに行くことは叶わず、途方に暮れた。 両親の「ねぇ、行成様。私も、葵人のように両手だけでもいいんです、縛って欲しいですわ」「幸がそう望むなら、叶えてみせよう」という会話をどことなく聞きながら、無言で奥へと進む碧人に、どこに行かされるのだろうと、ぼんやりと考えていた。 考えるのも億劫だ。自分が何かを考えていたとしても、何一つ出来やしないのだから。 今頃、真はあの檻に一人で入れられて、縋りたい相手がいないから、ずっと泣いているのかと思っていると、扉が開かれると共に、蝶番の軋む音が聞こえ、半ば意識を現実に向ける。 中に入っていたらしい、顔を下に向けられた先に、真新しそうな畳が敷かれていた。 ここが最期までいることとなる新たな部屋。 畳に横たわるように下ろされる。 その時に、一条の光が差し込み、その眩しさに目を細めたものの、久しぶりに見た外の光に、じんわりと涙が滲んでいった。 「さっきよりかは、明るい部屋でしょう?」 葵人の両手を持ち上げ、無理やり身体を起こされた時、さっきよりかは表情が柔らかい碧人と目が合い、顔を引きつりそうになる。

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