118 / 122

耐えきれない哀惜、檻猿籠鳥の矢先に 19

「あ、お父さま、一ついい?」 「ん? どうしたの?」 着ていたものを整えていたらしい新が、不意に葵人の頭に両手を置いた。 「お母さまの病気が治りますように。怖いことがなくなりますように」 そう言いながら、頭を撫でてくる。 一筋、涙が流れる。 そのおまじないは。 「じゃあね、お母さま。お父さま、またあとでね」 「またあとで」 ギイ、と耳障りな音が二度響いた後、次に二人分の足音が響く。 「……ぁ……」 上の子が怖い夢を見たらしい、寝ていたところをその泣き声で飛び起きたことがあった。 それに触発されて、寝ていた下の子も一緒に泣いてしまったことがあった。 どうしたらいいのかとオロオロとしてしまったが、ふと、その二人の柔らかな髪に触れた。 「新、いい子に育っていたでしょう?」 目隠しを外され、視界が広がる。 しかし、葵人の目にはあの小さな二人が映り、虚空に向かって両手を上げ、撫でる仕草をする。 「あの二人が寝ている最中に突然泣いた時、葵はそうやって慰めていたよね。まだ物心がつく前だったのに、新はどことなく憶えていたのかな。葵が母親として、愛情を与えた結果が現れていたね」 ──新、怖くないですよ。真、びっくりして起きてしまったのですね。大丈夫ですよ。……二人が怖い夢を見なくなりますように。 「あ、ら……たぁ……ま、……こ、と……」 ぽろり、ぽろりとまるで桜が散るかのように涙を流しながら、虚空に──葵人にとっては二人の頭を撫でていた。 ──と、その両手ごと掴まれた瞬間、目の前の光景が揺らめき、碧人が目の前に現れる。 「やっ、……や! あ……たっ、ま……こと……っ!」 いやだ。新と真をどこにやったの。 首を横に緩く振りながら、信じられないものを見たかのような表情をする葵人のその手を、ぐいっと引っ張る。 「……もう、新も真もいないのだから、僕の名前を呼んでくれてもいいんじゃないの……」 「……ぁ……ら、……ま、こ……っ」 「……さっきの、きちんと言えなかった罰の続きでもしようか」 閉じきれてない口から、新が放った精と涎が入り混じったものが口の端から垂れ流す葵人の両手をそのまま、梁から垂れ下がっている縄と結びつけ、膝立ちにさせると、碧人はズボンのチャックを開き、そこから脈打っている自身のを取り出した。 その間でも、言葉にもなってない言葉を葵人はぶつぶつ言っている、その口に、一気に差し込む。

ともだちにシェアしよう!