15 / 43
脱出 2
少年は焦っていた。
選抜だと。
「人形」としての適正があるかないかを審査するのだと言う。
その審査後、組織の「人形」になるか「売られる」かに別れるらしい。
「売られる」・・・「人形」より最悪だ。
まだ組織の人形なら、身体に傷が残るような真似はされないし、あまりにも酷い客は事前にふるい落とされる。
最高級の人形だから。
でも、売られるのは、どこに売られるのか知らないが、それは最悪だ。
どうなるのかはわからない。
審査は誰で何が行われるのかは聞きだせなかったけれど、大体はわかる。
適性を見ると言った。
まあ、そういうことを誰かにされるんだろう。
自分が誰かにされるのはゾっとした。
仲間やマザーならまだいい。
彼に似ているから。
でも、他は嫌だ。
それにするならともかく、されるのはゴメンだった。
さて、と。少年は考えている。
そして現在の彼との関係は。
「しないでいいの?」
彼は驚く。
腕の中から驚いたように、身体を起こす。
仲直りはした。
そしてあれから毎日飲ませていた。
だからしなくていいと言われて驚くのは当然かと少年は思う。
してもらいたい気持ちはあるのだけど、さすがに散々マザーに出した後だと・・・毎日飲んでくれている彼にはバレてしまう。
ヨソでしてきたことが。
精液の濃さで。
バレてはいけないと思っている。
「その代わりにして欲しいことがある」
少年はとりあえず何かごまかすことを考える。
彼にはバレたくない。
何かないか、させろさせろといってきた人間が、代わりにさせてごまかしのきくこと・・・。
やりたいことや、させたいことなどいくらでもある。
でも、彼が受け入れられること。
・・・ああ、そうだ。
「僕の名前をつけて」
少年は軽いキスを彼の唇に落としながら言った。
「・・・名前?でも、それは・・・」
彼はおびえたように言う。
名前は禁じられていた。
ニックネームでさえ。
必要がある時は与えられた番号で呼び合うことになっていた。
人間ではない、人形なのだと、思い知らせるために。
少年達はそれが何故か嫌で。
「おい」「お前」「ちょっと」
そう呼び合い、出来る限り、番号を呼ばないようにして生活していた。
だから、これは禁忌。
「・・・二人だけの秘密」
甘く囁き、髪を撫でその髪にキスする。
「名前・・・」
彼は呟いた。
「 」
その耳に少年は甘く囁く。
「 」
一つの名前。
前から思ってた。
彼を名前で呼ぶならこれがいいって。
彼が震えた。
脱がせておけば良かったと後悔する。
パジャマの襟から首筋から真っ赤になってるのが見える。
「それ、僕の名前?」
彼が腕の中で震えている。
前に触って泣かせた時みたいに。
軽く抱きしめているだけで触ってないのに。
「うん・・・嫌い?」
少年はキス出来るほど近く顔を近づけて囁く。
彼は真っ赤な顔のまま、首をふる。
「 」
また呼んだ。
彼が震えた。
はぁっ、
彼が吐息をこぼす。
「 」
また呼ぶ。
彼の身体が震える。
抱きしめ名前を呼ぶ。
名前を、抱きしめながら呼ぶことは、性行為になるのだとその日、知った。
でも、彼はこれは拒まなかった。
だから、ただ、髪を撫でてキスする距離でキスはせずに囁き続けた。
「 」
震える身体。
「 」
また呼ぶ。
「・・・僕おかしい」
涙目で朦朧と彼が言った。
マザー相手に出なくなるまでしていたのに・・・少年もまた、勃っていた。
でも、耐える。
「 」
名前を囁く。
ビクンビクン
彼の身体が激しく震えた。
「あっ・・・」
彼が怯えた顔をした。
「出た」
小さい声で彼が言った。
「本当?」
彼は彼を抱きしめた。
パジャマの上から彼のそこをそっと触れる。
パジャマの上からも、そこの様子がわかった。
すぐに離した。
彼が嫌がるから。
「 」
名前を呼んで抱きしめた。
名前を呼んで抱きしめることは・・・彼は嫌がらなかった。
「 」
震える声が少年を呼んだ。
濡れた瞳で見つめられ、その名前は呼ばれた。
自分の中にそれはゆっくりと、入っていった。
「それ、僕の?」
少年は囁く。
彼は頷く。
真っ赤になりながら。
「もう一度呼んで」
少年は囁く。
「 」
優しい声が囁いた。
耳元で囁かれ・・・めちゃくちゃキた。
強く抱きしめる。
でもそれ以上はしない。
勃起した少年のモノに彼は怯えたが、少年が動かないので安心する。
「 」
また名前を呼ばれた。
ああ、このままこすりつけてイキたい。
でも耐える。
「 」
少年も彼の名前を呼んだ。
パジャマの上から自分の股間から、彼のも反応しているのがわかった。
「 」
彼が少年を呼ぶ。
これは禁じられた行為。
絶対に許されない行為。
生まれてから死ぬまで、名前を与えられない少年達の秘密の行為。
名前を呼び合うだけの性交に、少年も彼も甘く解け、果てた。
「・・・僕に名前をありがとう」
彼が微笑んだ。
「・・・僕に名前をありがとう」
少年も微笑んだ。
少年の決意は固まる。
ここを出て、彼と名前を呼び合いながら・・・生きるんだ。
少年は彼を抱きしめた。
「君だけいればいい」
少年は囁く。
「君だけでいい」
いつか溶け合うんだ。
繋がって溶け合って、境目なんかなくなってしまうくらいに。
名前を呼び合い、どちらの名前なのか解らなくなってしまうくらいに。
「うん」
彼もしがみついてきた。
・・・まだ彼には言わない。
すぐ顔に出てしまうから。
さて、どうやってここから出るか・・・考えよう。
ともだちにシェアしよう!