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殺戮 5

 始めてしばらくは誰も気付かなかった。  隣りから聞こえる悲鳴のような嬌声に、少年達は興奮と不安でざわついていた。    皆、席に不安気に座っていた。  突然、少年は、右隣りに座ったヤツの首を斬った。  サバイバルナイフは良く斬れた。  白い喉がパクリと開いて、血が吹き出した。  何も言わずに崩れ落ちた。  ただ、うまく斬れなかったらしく、小さく呻きながら、目を見開き、傷口を抑えて倒れていた。  まあ、全員殺すのが目的ではないからいい。  そのまま、どんどん斬っていく。  左隣り、そしてその隣り。  流れるように斬っていった。  不思議な位、音がしなかった。  迷いなど一切なかった。  三人目位で、皆気付いたはずなのに、みんなただ目を見張るだけだった。  三人目も同じだった。  喉を斬られたのに、驚いたように見ている連中と同じようにただ目を見開くのか面白いと思った。    その目が言っていた。  どうして?  幼い頃から一緒にだったのに。  「・・・だからだよ」  少年は呟いた。   僕はお前達がずっとずっと、大嫌いだったんだ。  少年は思った。    人を斬る感覚は思った以上に生々しく、始めて人の身体の中に入ったことを思い出させた。  初めて入ったのは彼ではなかった残念ながら。  誰でも良い誰かの中に、彼のことだけ考えながら身体を沈めたのは覚えている。    あの時の生々しい感触。  人を斬る感触と少し似ていた。  入ったのがコイツらの誰だったのかは覚えていないけど。  まあ、彼以外とは全員とシている。  だからこのナイフも全員に挿れてやるよ。  そう思った。  そして、悲鳴がやっと起こったのは何人目だったか。  そこからはめった刺しにした。  ただ、この部屋から出さないためだけにに。   全員刺した。  そう・・・彼さえも。  彼は別。  彼だけは別。  刺したけれど別。  「・・・肩を刺す。ごめん。この後君達は病院につれて行かれる。そこへ迎えに行くよ。二人で逃げよう」  直前に話はしていた。  この部屋に連れられて来た時に。  「・・・なら、みんなも軽く刺すだけで・・・」  彼は声を潜めていった。  「・・・ダメだ。何人か死ぬ位じゃないと医者がここに来て終わりになる。相当の重傷じゃないと」  少年は確かめたのだ。  この前、彼に触ったヤツをとことん殴ったのはただ、殴りたかったからだけじゃない。  医者を呼ぶ位では間に合わないような傷を負えばどうなるのかを知りたかったのだ。  自分達を作るには金がかかっている。  そうカンタンには破棄にはしないはずだ。  実際、不合格が決まっている自分や彼もどこかに「売却」されるわけなのだし。  殺さないですむように病院に送るはずだ。  それを確かめるために、重傷をおわせた。  やはり、ソイツはセキュリティー達の手によって組織の息がかかった病院に連れて行かれた。  あの後、マザーからそれは聞き出している。  それ以来ソイツは帰ってはこない。  元通りにはならず「売却」されたのだろう。  とにかく、何人か殺して、全員に重傷を負わせておけば病院に運ぶはずだ。    うずくまり、血まみれで意識を失っていれば自動的に病院に運んでくれるはすだ。  見た目だけでは傷の具合などわからないこらだ。     彼は呆然と見ていた。   少年が仲間を殺し、傷付けていくのを。  その手の中のサバイバルナイフは本当によく切れた。  音もなく、鮮血を喉から迸らせ、仲間達は少年に殺されていった。  好きな仲間達ではなかった。  苛められたし、犯されかけたこともある。  でも、彼等は同じ境遇で、遺伝子的には彼や少年と全く同じで。  そう・・・仲の悪い兄弟みたいには思っていたのだ。  傷付けようなんて、思いもしなかった。  だけど。  なのに。  彼はなすすべもなく、少年が仲間を殺していくのを見ていた。  本当に殺している。  本当に。  少年はなんのためらいもなく、全くの躊躇もなく、彼等をナイフで、首を斬りつけていた。  それを呆然と彼は見続けていた。  そして、最後にナイフが向けられたのは彼だった。   「待っ・・・」  言いかける彼を少年は刺した。  肩にすばやく。  軽傷ではダメだった。  だから、前から背中側まで抜けるほどに刺した。  少年の胸に痛みは走った。  彼の顔が苦痛で歪むのが苦しかった。  彼の苦痛は耐え難かった。  でも、迷いなどなかった。  他の奴らを刺した時の迷いのなさとはこれは違った。  愛していたから。   刺すことで彼を守れるならいくらでも刺した。  彼を傷つけると自分が苦しくなったが、それでも耐えられた。  これが彼を自由にするためなら。  これは、少年にとって「愛」だった。  貫きながら思わずキスをした。  苦痛を与えてしまっているのに、その苦痛に胸か苦しいのに、それでも彼の身体を刃物とは言え貫いているのに、どうしようもなく興奮していて。  いや、それとも奴らを刺している時にすでに興奮していたのか・・・。  少年は自分が彼を刺しながら射精していることに気付いていた。  とんでもなく、気持ち良かった。  「目を閉じて寝ていて。・・・病院に迎えに行くから」  彼を抱きしめ優しく囁いた。  彼の身体は痛みのせいか震えていた。  ああ、今日の夜、病院から彼を攫ったなら、今日こそ彼を抱こう。  君の奥まで僕のモノにする。  少年は決めていた。    もう、セックスドールになんかにさせないから、僕だけの彼にするから・・・。  君が何を言おうと、絶対に僕のものにする。  少年は彼を横たえ、自分も横になった。  返り血を浴びた少年のその姿は、刺されて死んで子供達や、呻き声を上げる子供達と同じにしかみえなかった。  

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