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殺戮 8
「随分背が伸びたね。僕とそれほど変わらぬくらいに」
マザーは笑う。
「・・・僕を身代わりにする気か?」
少年は言った。
考えていることは良くわかる。
さすがに、同じ遺伝子だ。
マザーは笑う。
「ここを燃やす。お前が逃げたという情報はもう、組織に送っている。死体の数は足りている。燃えてしまえば僕もお前も組織には見分けがつかない。そして、組織が探すのはまだ10代の少年で・・・40代の僕じゃない」
マザーは笑った。
少年が全員を殺し、火を放って逃げたことにすれば、マザーは死んだことにすれば、マザーは組織から逃げられる。
「このチャンスを何十年待ったと思っている・・・」
マザーは吐き捨てるように言った。
少年はマザーを好きだと初めて思った。
マザーは・・・セックスドールなんかではなかったのだ。
この男は何十年も逃げるチャンスを待ち続けたのだ。
人形のふりをしながら。
逃げる方法を考え続け、そして、そのチャンスを今現実のものにしたのだ。
そして思った。
少年や彼が、人形にならなかったのはこういう男が自分達を育てていたからかもしれない、とも。
この場面で感じたのは・・・むしろ愛しさだった。
銃を突きつけられ、身代わりに殺されようとしている中で感じたのは、殺した連中には少しも感じなかった溢れるような優しい想いだった。
何度も貫き、抱いた時には全く感じなかった愛だった。
彼に感じる愛とは違う・・・敬意と感謝だった。
「・・・マザー。僕達はあんただ。あんたは賢い。そして【僕達】も」
少年は言った。
マザーは眉をひそめ、でも気付いた。
慌てて振り返った。
気付いた時には遅かった。
マザーの背中にはナイフか深々と刺さっていた。
・・・彼が刺したのだ。
少年は彼と離れる時、ボディーガードのポケットに入っていたナイフを彼に渡していたのだ。
大事なもの。
万が一の時に、彼が自分で自分を守れるものとして。
そして彼は、マザーや少年と同じで愚かではなかった。
同じ遺伝子で出来た生き物。
そのチャンスを待ち、そして、見逃さない。
「マザー・・・僕も、結局はあなた達と同じなんだ」
彼は悲しそうに言った。
タイプ「クィーン」は残酷傲慢・・・。
人を傷つけることを恐れない。
彼は泣いていた。
彼はただ一人の親をその手にかけたから。
少年よりも、マザーよりも残酷なことをしてのけたことを知っていたから。
一番残酷なのは・・・自分だ。
彼は泣いた。
「・・・君は僕を守っただけだ。」
少年は彼を抱きしめた。
そろそろ8分。
もうすぐ、セキュリティーがくる。
少年はマザーの服を剥いだ。
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