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殺戮 9
「子供達を病院に!」
セキュリティー達にマザーは叫んだ。
セキュリティー達は慌てて車にまだ息のある子供達を載せていく。
応急処置を施す。
幹部やドールやボディーガード達は死んでいた。
そして・・・セキュリティー達は一人の沢山の死体の中にある全裸の死体に気付いた。
それが誰であるかはセキュリティー達は良く知っていた。
彼らが抱いた身体。
彼らを虜にした身体。
では、先程、セキュリティー達に指示をしたマザーは?
あれは一体?
そして、気づく。
マザーからの報告ではすでに脱走したはずの少年はまだここにいて、マザーになりすまし・・・今度こそ本当に脱走したのだ。
彼らが慌てて探しても、少年はもうどこにもいなかった。
施設の中のどこにも。
とにかく、セキュリティー達は生きている者を病院へ運ぶことに専念した。
これだけの被害だ。
完成前のドールが10体。そのうち6名が死亡。
現役のドールが3体全員死亡。
マザーを含む幹部やボディーガード達が9名死亡。
たった12才の少年がこれだけの人間を傷付け、殺してまわったのだ。
無力な少年であることを武器にして。
とにかくセキュリティー達は生きているまだ未熟なドール達を病院にはこばなければならなかった。
彼らは身体に傷がついてしまった。
もう、組織のセックスドールにはなれない。
セックスドールは傷一つない、完璧なものでなければならないからだ。
子供達は【販売】される。
そのために、まだ殺すわけにはいかなかった。
このまま死なれては大損だ。
彼はセキュリティー達に毛布にくるまれ、運ばれていった。
少年は病院に迎えにくると言った。
うまく逃げれただろうか。
少年は思う。
このまま彼が逃げてくれればいいと。
自分には構わず。
涙がこぼれた。
少年がマザーの服を着て出て行く前に言った。
「・・・もしも、僕を助けられなければ、僕を忘れて」
彼は少年に言ったのだ。
「バカ。助ける。助けるから」
少年は優しく笑って、彼にキスをし、セキュリティーに向かって走っていった。
ずっと覚えておいてほしいと思っていた。
他の誰を少年が抱いても、抱かれても、そうしなかった彼なら覚えてくれる、だから抱かれたくなかった彼の特別てあるために。
でも、分かった。
分かったのだ。
「僕は君で、君は僕なんだ」
彼は運ばれながらつぶやいた。
殺戮の中、彼は理解した。
彼は理解できた。
少年がこれを行う意味を。
そして、本気で止めようとは思わなかったのだ。
少年の中にある激情は破壊本能は自分も同じだった。
全てが憎かった。
少年のように実際に行動しないだけで、その怒りは自分の中にもあった。
快楽の道具を必要としている奴ら。
自分達が本物の人間でないからと、残酷さを楽しむ奴ら。
そのために自分達を作り上げた奴ら。
そして、その作り上げた者達の思惑通りの道具になる奴ら。
憎かった。
憎かった。
お前達にこそ、残酷さは返されるべきだと思った。
お前達こそ、僕達の快楽の道具になるべきだ。
そう思ったのだ。
少年はそれを現実にしただけだ。
少年も彼も同じだった。
少年は彼は違うと思っているだろうけれど。
僕と君は同じだ。
僕達は自分しか愛していないんだ。
彼は思った。
それでもいい。
それでも良かった。
もしも、少年と生きて行けるなら、それでも生きて行きたい。
これか自己愛でしかなくても。
でも、もしも彼が自分を助けることが出来ないのなら・・・。
自分を忘れて欲しかった。
もう、忘れても大丈夫。
だって君は僕。僕は君だもの。
君の考えることは僕の考えること。
僕の考えることは君の考えること。
そばにいなくても一緒だから。
そして。
いつか。
本当に誰かを愛して。
全然僕達とは似たところのない、全然違う誰かを。
こんな僕達をそれでも愛してくれる誰かを。
見つけて。
愛して。
愛されて。
お互いに理解なんかできなくても。
きっとその人が君に全てを与えてくれる。
僕では無理。
僕は君だから
「 」
彼は少年の名前を呼んだ。
秘密の名前を。
それでも僕は。
君を、愛している。
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