32 / 43

殺戮 9

 「子供達を病院に!」  セキュリティー達にマザーは叫んだ。  セキュリティー達は慌てて車にまだ息のある子供達を載せていく。  応急処置を施す。  幹部やドールやボディーガード達は死んでいた。   そして・・・セキュリティー達は一人の沢山の死体の中にある全裸の死体に気付いた。  それが誰であるかはセキュリティー達は良く知っていた。  彼らが抱いた身体。   彼らを虜にした身体。  では、先程、セキュリティー達に指示をしたマザーは?  あれは一体?  そして、気づく。  マザーからの報告ではすでに脱走したはずの少年はまだここにいて、マザーになりすまし・・・今度こそ本当に脱走したのだ。  彼らが慌てて探しても、少年はもうどこにもいなかった。  施設の中のどこにも。  とにかく、セキュリティー達は生きている者を病院へ運ぶことに専念した。  これだけの被害だ。  完成前のドールが10体。そのうち6名が死亡。  現役のドールが3体全員死亡。  マザーを含む幹部やボディーガード達が9名死亡。  たった12才の少年がこれだけの人間を傷付け、殺してまわったのだ。  無力な少年であることを武器にして。  とにかくセキュリティー達は生きているまだ未熟なドール達を病院にはこばなければならなかった。  彼らは身体に傷がついてしまった。  もう、組織のセックスドールにはなれない。  セックスドールは傷一つない、完璧なものでなければならないからだ。  子供達は【販売】される。  そのために、まだ殺すわけにはいかなかった。  このまま死なれては大損だ。  彼はセキュリティー達に毛布にくるまれ、運ばれていった。  少年は病院に迎えにくると言った。  うまく逃げれただろうか。  少年は思う。  このまま彼が逃げてくれればいいと。  自分には構わず。  涙がこぼれた。  少年がマザーの服を着て出て行く前に言った。  「・・・もしも、僕を助けられなければ、僕を忘れて」  彼は少年に言ったのだ。  「バカ。助ける。助けるから」  少年は優しく笑って、彼にキスをし、セキュリティーに向かって走っていった。  ずっと覚えておいてほしいと思っていた。  他の誰を少年が抱いても、抱かれても、そうしなかった彼なら覚えてくれる、だから抱かれたくなかった彼の特別てあるために。  でも、分かった。  分かったのだ。     「僕は君で、君は僕なんだ」  彼は運ばれながらつぶやいた。  殺戮の中、彼は理解した。  彼は理解できた。  少年がこれを行う意味を。  そして、本気で止めようとは思わなかったのだ。    少年の中にある激情は破壊本能は自分も同じだった。  全てが憎かった。  少年のように実際に行動しないだけで、その怒りは自分の中にもあった。  快楽の道具を必要としている奴ら。  自分達が本物の人間でないからと、残酷さを楽しむ奴ら。  そのために自分達を作り上げた奴ら。  そして、その作り上げた者達の思惑通りの道具になる奴ら。   憎かった。  憎かった。  お前達にこそ、残酷さは返されるべきだと思った。  お前達こそ、僕達の快楽の道具になるべきだ。  そう思ったのだ。  少年はそれを現実にしただけだ。  少年も彼も同じだった。   少年は彼は違うと思っているだろうけれど。  僕と君は同じだ。  僕達は自分しか愛していないんだ。  彼は思った。  それでもいい。  それでも良かった。  もしも、少年と生きて行けるなら、それでも生きて行きたい。  これか自己愛でしかなくても。  でも、もしも彼が自分を助けることが出来ないのなら・・・。  自分を忘れて欲しかった。  もう、忘れても大丈夫。   だって君は僕。僕は君だもの。  君の考えることは僕の考えること。  僕の考えることは君の考えること。  そばにいなくても一緒だから。  そして。  いつか。  本当に誰かを愛して。  全然僕達とは似たところのない、全然違う誰かを。  こんな僕達をそれでも愛してくれる誰かを。  見つけて。  愛して。  愛されて。  お互いに理解なんかできなくても。  きっとその人が君に全てを与えてくれる。  僕では無理。  僕は君だから  「  」  彼は少年の名前を呼んだ。  秘密の名前を。  それでも僕は。  君を、愛している。    

ともだちにシェアしよう!