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マザー 2

 「絶対に1対1で相手はするな」  それが前任者からの忠告だった。  「子供達の世話が出来なくなるようなことをしてはいけない、怪我もさせるな」  それも言われた。  「言葉を必要以上に交わすな、『マザー』への指示は直接幹部がする。でも・・・」  前任者は下品な笑いを浮かべた。  「楽しみたかったら、楽しんでもいいんだぜ。ほどほどにな。ありゃ、最高だ」  そう、この密林の奥へほぼ一年間閉じ込められるのだ。  『工場』の警備だ。  町へは車で数時間かかる。  お楽しみはなくてはならない。  だから、ドールと出来る。  本来は禁止だが、上も目を瞑ってくれているらしい。  そう簡単に女も買えなくなるのだから、こんな場所では。  「絶対に・・・複数で相手しろ。絶対に・・・一人でアレと向かいあうのだけは・・・やめろ」  そこだけは何度も言われた。  「・・・正直、ここを離れたくないと思っちまってる。後少し長くここにいたら・・・ヤバい」  どこか苦い表情でソイツは言った。  その意味は後々知ることになる。  そして、男は初めてマザーと出会い・・・仲間達とレイプすることからその関係は始まった。  女をレイプしたことなどなかった。    ましてや男を複数の人間でなど。  ただ、相手は人間じゃない、創られた人形で、ましてやセックスのためだけに造られていて、何をしても嫌がらない、そう聞かされていたから抵抗はなかった。  むしろ、してはいけないことが出来るんだと思って喜んだ。  だって相手は人間じゃないんだから。  エロいDVDでも見ている気分だった。  外からの荷物を運びこむのが最初の仕事だった。  そして、そのままその倉庫で皆で押さえつけ、順番に楽しんだ。  抵抗したのは最初だけで・・・その人はすぐに諦めた。  前任者達からもされていたから、慣れていたのだろう。   両手両脚を抑える必要はなくなった。  自分から、挿れている男に身体をこすりつけてきた。  「・・・あっ、すごい・・・嘘」  女のように喘いだのは挿れたヤツの方だった。  腰を打ちつけているのに、まるで、犯されているのように。  悲鳴のように声を上げていた。  痛くなるほど勃ててそれを見ていた。  腰が淫らに揺れるのも、白い喉が反らされるのも。  淫らで。  淫らで。  次のヤツが乗っかっても、その人は乱れてみせた。  「・・・うわっ・・・こんなの・・・もう女なんか抱けねぇ」  そこの感覚だけで喘がせられたのは挿れた方だった。  その穴の中で何が起こってるのかは分からなかったが、甘く喘ぐ白い肉体が・・・欲しくてたまらなかった。  見ているどけに耐えられなくて、自分の番がくるまで待てなくて。  人に抱かれ、喘ぐその人の唇にキスをした。  「テメェ・・・自分の番まで待て!!」   そう挿れているヤツに怒鳴れたけれど・・・まだ他の奴らがここには触れてないから、先にそこだけでも自分のモノにしたかった。  入れた舌にその人が応えてくれて、絡めあうのが嬉しかった。  人に犯されている人と・・・恋人みたいなキスをした。  これは、レイプ。  いや、人形遊び。  みんなで、ダッチワイフで遊んで遊んでいるだけ。  なのに。  乱れきった白い身体のいやらしさでも、頭が痺れるようなキスでも。  硬く痛いくらい勃った自分のモノよりでもなくて。    その最中にその人が一瞬みせた遠い遠い眼差しだけが、心に焼き付いた。  まるで、ここにはいないように。    まるで、どこにも居ないように。   絶対に1対1ではするなと言われていた。  危険だから、と。  のめり込んでしまうから、と。  でも、それを最初に破ったのは男で。  どうしても他のヤツにむさぼられるその人を観たくなくて。  せめて二人きりになりたくて。  そうしだすと、他の奴らもそうしだして、皆で一緒にすることはなくなった。  でも、他の連中もこうしているのか、と思うと腹の底から何かがこみ上げた。  それが何なのかはわからなかったけど。  この人は最初から誰のものでもなかった。  組織のものでしかなかった。  それを組織の目を盗んで抱いているだけだとわかっているのに。  でも、まるで、恋人を抱くように抱いてしまっていた。  「可愛い、あんた可愛い」  部屋に連れ込み、囁いて抱きしめる。  髪を撫で、口づける。  その人の部屋のベッドで優しく服を剥いていく。  人形相手に甘く囁く自分はどれだけ滑稽なのかとも思うのに。  優しくしたい。  優しく抱きたい。  優しく確かめるようにその身体を手のひらでなぞる。  優しく触れて。  背中を撫でて。  その人が満足気な吐息を零すの度に、胸が震えた。  「あんた綺麗だ。本当に綺麗だ。・・・俺を見て・・・お願い」  優しい視線で自分を見て欲しいなどと思ってしまう。  髪を撫で、恋人のように、本当にいた恋人達にはしなかった程の優しさで触れて抱く。   「本当に・・・綺麗だ」  その中に入り、その人に溺れる。   目が合えば微笑んで欲しくて、何度も何度もキスをする。  確かにその人は微笑む。  艶やかに。  人形が教え込まれたように、そう作られたように笑っているのか、それとも本当に笑っているのか、男にはわからなかった。  ただ、ただ。  その人に溺れた。  20ちかく年の離れた、美しい人に。  美しい人形に。

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