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第357話 卒業1
卒業旅行の話はとんとん拍子に決まっていき、春休み入ってすぐに霧緒と俺、菊池先輩と玲二の四人で行くことが決定した。
一泊二日の温泉旅行だ。
和室を二部屋とり、各部屋に専用の露天風呂……は、さすがに高くて無理だったけれど、決めた旅館には大浴場の他に、貸し切りができる露天風呂があるみたいだからそれでよしとした。
「くっそ専用露天風呂付きは高いな、しかたない……貸し切りで我慢するか……」
そうぶつぶつと文句を言っていたのは、他でもないうちの彼氏君だったけど、こればっかりは仕方がない。
色々拘りたいのはわかるけど、なんせ高校生の卒業旅行なので、どうしてもクオリティーは下がってしまう。
クリスマスの時に、霧緒と二人で泊まったあのホテルだって、普通に予約したら結構なお値段だったし。
それでも皆と一緒に旅行なんて初めてだし、考えたら超楽しそうで春休みが来るのが待ち遠しいんだけど、内心複雑な思いだった。
その前にやって来てしまう、霧緒達の卒業式。
……
……
それを考えると、寂しくて仕方がなかった。
考えても日が経つのは早くて、本当に早くて日々の学校生活、卒業式の準備は滞りなく進んでいく。
「なぁんか……寂しい……」
「……んだねぇ……」
「きっと卒業式当日はさぁ……もみくちゃにされるんだぜ、キリ先輩……制服のすべてのボタン取られちゃうんだ後輩に~」
「菊池先輩も、無事じゃすまないんだろうな……おこぼれにあやかれるかなぁ……」
「おこぼれ……あればいいよなぁ」
「だよねぇ……」
どちらも突っ込まない愚痴を、廊下の窓からぼんやりと景色を眺め呟く俺と玲二。
先輩たちも進路が決まり、すでにその先に動き出している。
菊池先輩は第一志望していた大学へ進学が決まり、霧緒は第一志望の大学を蹴って、他の大学へ進むことになった。
どうして第一志望の大学をやめたのかはわからないけれど、どちらもとっても有名な大学だということにかわりなく、日々の努力とはこういう形で現れるのかと尊敬してしまう。
霧緒達はもう数えるしか学校に来ないので、最後の最後に可能性をかけて先輩達にモーションを起こす女子が後を絶たなかった。
流石モテモテな先輩二人は、あしらい方も慣れているらしく、そんな女子達を巧みにかわしていた。えー……相手の数が多くて嫉妬する暇もございません。
「でも、宮ノ内先輩には凄い可愛い恋人いるって噂なんだろ?何か他の学校らしいって聞いたけど」
「あぁー……そ、そうそうそうみたい。その噂のおかげで大分霧緒のファンが泣いたって聞いたー」
他でもない……その噂の可愛い彼女は女装した俺なんだけどな!
俺が女装したという話は玲二にしていないので、詳細を言うことはできなかった。
……だって、女装したって話は、玲二には刺激が強そうだし?
霧緒が確実に変態の目で見られることになりそうだから、言うに言えない。
それに玲二の追及半端ないから、女装したままイチャイチャエッチしてしまったことまでバレて、玲二に絶叫されそうだ。
あははあはは……
そんなこともありましたなぁ。
……はぁ……
何回ため息をしても、時間を止めることは出来ない。
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