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第362話 卒業6
「だあぁぁぁぁ……」
「な、なんだどうした」
「……なんでも……」
「なんでもじゃないだろその顔。どうした」
今日の霧緒は、皆の霧緒だ。
そう思っていたのに、ワガママな自分が邪魔をして情けない顔になってしまった。
「ネ、ネクタイ……は」
「ネクタイ?あるけど」
ペットボトルを脇に置き、霧緒は自分の鞄からするりとネクタイを取り出した。
あ、そんなところにしまってたんすね……あるのが確認できると、ホッとして途端に顔が緩んでくる。
「は、わかりやすいな。ほら」
慌てて差し出した手のひらにのせられたネクタイをマジマジと見つめ、持ち主である霧緒を顔を伺った。
相変わらずクールで無機質な瞳は俺を見つめていて、俺の反応を待っている……
「……へ、えへへ……いいんですかー」
「いいんですかーって貰う気満々だったろ。ネクタイをお前達用に取っておこうって宗太と話したから……」
「そっかー!やったぁ」
「そんなに嬉しいか?」
「そりゃ勿論~」
「………ン……何か匂うな……香水?」
「ん?あぁ、さっき友子さんと一緒だったからかな?先帰るって言ってた」
「そうか……あー疲れた」
「何か、見事に何もついてないね」
「まぁな」
ベンチに座っている間も、前を通りすぎる後輩達がスマホで霧緒を(何故か隣にいる俺も)パシャリと撮って通り過ぎていく。
反射的にピースしてしまう自分が悲しい。
霧緒から貰ったネクタイを簡単に首につけて、ネクタイが二つになった。
おかしいとわかっていても今日は特別だ。
明日からは霧緒と菊池先輩はもう学校には来ない……
そう考えると涙腺が緩んでくるから、考えないように努める。
「これ、やる」
幾つもの花束を渡されて、玲二と同じように荷物係になった。
可愛らしい花束の他にも、ラッピングされたプレゼントらしきものがショルダーサイズの紙袋に入っていて、持ち帰るのが大変そうだ。
……色んな子達の想いが込められているんだろうなぁ。
「花束は友子さんが喜ぶから持って帰りなよ」
「……」
「キリ先輩、そんな嫌そうな顔しなーい」
「さ、帰るぞ」
「うん」
荷物を抱え校舎を後にする。
風は冷たいけれど、不思議と寒くは感じなかった。
いつもと同じ道……変わらない通学路……
「キリ先輩……卒業おめでとう~」
「ン」
「はぁー明日からボッチで登校するのかぁ……」
「ちゃんと起きて行けよ」
「うん……頑張る……あーあ、まだ来年も高校生かぁ……大学生……大学生って……大人な響き過ぎる。もう霧緒のことキリ先輩って言えないし……だーーー!!」
「……詩、高校の後二年間なんてあっという間だ。頑張れ」
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