364 / 506
第364話 卒業8
「ほら、これでも花瓶に生けておけ」
「え!」
持ち帰って来た花束をバサリと乱暴に友子さんに手渡し、俺の手を取って霧緒の部屋へと向かった。
「……はぁ……疲れる……」
「霧緒……大丈夫か?」
「ン……無理だろ」
霧緒はため息しつつベッドに腰掛けると、隣に座るようにポンポンとベッドの上を軽く叩いた。
指示された通りに隣に座ると、直ぐに両手で抱きしめられてしまう。
顔を埋め温もりを鼓動を確かめるようにきつく……
……背中に回した手で、お疲れ様の意味を込めてそっと撫でてあげた……
あんなに人気者のイケメンが、背中を丸め撫で撫でされているなんて、皆夢にも思わないだろうなぁ……
やはり離れていた母親が家に居るのってストレスになるのだろうか……
元々仲の良い関係ならそんな事はないのだろうけど、霧緒と友子さんは少し微妙だ。
……両親の離婚があったり、友子さんには園田さんという恋人がいたり……
思春期の霧緒にはかなりのダメージだったに違いない。
これからは一緒に生活することになるんだよな?だ、大丈夫かな……
「……折角……」
「うん……」
「帰ったら詩に着せようと思ってたのに」
「……何を?」
「俺のワイシャツとブレザー」
「お、おう」
「それ着せてネクタイ付けたら……マジでエロヤバいよなぁ……」
「……へ」
「それ着せた詩が上で、俺が下でさぁ……あー!あいつがいたら思い切りできねぇ……」
「……」
おー?
さてさて?
何を言ってるんだ、こやつは?んん?
さっきのため息はなんのため息だったのか……
考えるとどうも俺が心配していた内容ではないようで、急に気が抜けてきてしまった。
「あーもしもし?それってエッチの話?」
「それ以外何が?」
「い、いや……」
霧緒の顔が見えるように顔を上げると、透き通るような澄んだ瞳と目が合う。
さらりとした前髪の間から覗く瞳は美しく、下睫毛が色っぽさを醸す。
あー!相変わらずイイ男!
無機質から熱っぽい瞳に変わるのがわかると、ドキドキしてきてしまう。
「詩……キス……」
「え」
「キスして……」
ふっと顔が近づき、唇と唇が重なる寸前。
視線が俺の唇へと注がれていて、こちらからしてくれるのを待っている状態だ。
霧緒がキスをおねだりしてくるなんて可愛いなぁなんて思いながら、形のよい頬の輪郭を確かめるように手を添えながら、ふにっと唇を重ねた。
「……おめでと……」
「……」
「……」
その後は無言でお互いの唇を堪能し合う。
抱きしめ合っていた互いの手を重ね、指を絡ませた。
ともだちにシェアしよう!