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第365話 卒業9 *
霧緒
ネクタイを早めに外して、詩用に確保しておいたのは正解だった。
あいつら最後だからと言って、容赦なく人の物を奪っていきやがる。
泣かれるし抱きつかれるし挟まれて揉みくちゃにされ、途中からもうどうでもよくなりヤケクソになっていた。
後輩、同級生から先生、知らない誰かの保護者まで色んな奴と写真を撮り……つか撮りすぎだろ!途中から人に酔ってしまい、テンションがガクンと落ちだ。
喉が渇いたので自販機で飲み物を買っていると、誰かが近付いてくる気配……
……ったく……
それが誰かわかった瞬間に安堵してしまう自分がいる。
そいつの為に小銭を追加すると、嬉しそうに自分の希望のボタンをポチりと押す。
ったく……俺がボロボロになってる原因はお前にもあるんだけど?
ちょっと殴ってやろうかと思ったけど、嬉しそうなこいつの顔を見てしまったら、そんなこと当然出来るわけなく、ベンチに座り黙って喉を潤した。
今キスしたらカフェオレ味か……なんて思いつつ……じっとこっちを見つめている視線を感じながらドリンクを飲み干す。
……ぱっちりとした茶色い瞳が印象的で愛嬌がある。
黄色みがかった肌は健康的で滑らかで触り心地が良いのを知っている。
はぁ……やれやれ……
式も終わり同級生や後輩達、先生にも挨拶を済ませた。
他人に関心のない俺だけど、我ながらよく頑張ったと思う。
以前の自分だったら無視して真っ直ぐ家に帰っていだだろう。
詩があんなこと言うから……
『皆がさ、霧緒が卒業しちゃうのスゲー寂しがってて、女子達宮ノ内ロスで学校休むかもって言ってる』
『……ふーん、くだらねぇ』
『く、くだらなくない!めちゃくちゃ皆に愛されてンじゃん!こんなに愛想なーい先輩なのに逆に感謝しないとだぞ!おお俺のことはさ、お気になさらず……最後くらいはほら……皆にサービスしてあげなって……あ!でもおさわりななしで!』
『……』
ぐぬぬとか呻きながら何をこいつは言ってんだ?って思ったけど、あんな風に真剣に言われたら嫌とも言えず。
つーか、どんだけこいつに惚れてンだ俺……
隣に引っ越して来たこいつのせいで、高校最後の一年間はそれまでと全く違うものとなった。
思い返してみると、会うたびに惹かれていて、あっという間に好きになっていた気がする。
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