霧緒 確かに詩の顔が赤い……というか首筋も赤い。 熱はあるけど、いたって元気そうなので体調が悪いわけではないようだ。 しかしこのいつもよりも高めのテンション……どこかで覚えがあるような気がする。 「……この葡萄ジュースですかね？」 「え、ジュースだろ？んなまさか」 葡萄ジュースが入っていたおちょこサイズのコップの匂いを嗅いでみたけれど、アルコールの匂いはしなかった。 しかしちらりと詩を見るとやっぱり酔っぱらっている気がしてならないので、内線で確認してみる。 「……料理にアルコールは入っていないと言っているけど、可能性があるとしたら、デザートの酒粕のアイスクリームらしい……」 「さ、酒粕……ですか。僕全然わからなかったです」 「アルコールは十分飛ばしてあるって旅館側は言ってるけど、絶対これだろ」 「霧緒の分も食べてたし。萩生は酒弱そうだもんなぁー。類の時もホテルで酒入りジュース飲まされてぶっ倒れたことあったし」 赤い顔してへらへら笑っているこの様子は、完全にいつかのホテルで見た詩と同じだったので、酔っぱらっているのは明らかだった。 「詩、水飲んでおけ水」 「あはは、はーーい！」 「バカそれは醤油だ」 ご機嫌で醤油を手にしてそれを飲もうとするのを止めると、俺の方に振り返り、思い切り抱き着いて畳に押し倒されてしまった。 ……もう駄目だこいつ完全に酔っている。 「おー！ちょっとヤバいなこれ。おーい、ここではじめんじゃないぞー！お前ら部屋に戻れ部屋に！」 「さ、さすが詩……宮ノ内先輩が焦ってる！凄い！詩凄い！」 「キリ先輩いい匂いしますなぁ～」 顔を俺の胸に埋めて、ぐりぐりと頬ずりをする詩を押し返して、何とか立たせる。 ベタベタと絡んでくる詩の背中に腕を回した。 「わ、悪い……散らかしたままだけど撤収するわ」 「はーい！ほどほどにしてやれよー？」 「……さぁね。そっちもな」 ワザと屋内の方を見ながら意味深にニヤリと微笑むと、屋内の顔がみるみる沸騰するのが分かった。 格好つかない退場だけど、詩がこうなってしまったから仕方がない。 「……んーキリせんぱーーい」 「はいはい、ちゃんと歩けって」 抱き着かれて歩きにくいけれど、何とか鍵を開けて自分たちの部屋へと戻った。