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第421話
「本当に……すみません!」
「うん、大丈夫だからご飯食べなよ。冷めちゃうから」
「だ、だけど……」
「気にしない気にしない。ただの水だし、直ぐ乾くから~」
「……」
俺に水を噴いた奴は、心底申し訳なさそうにしていて、少し泣きそうになっていた。
その様子が怒られてしょんぼりしているワンコのようで、無性に可愛らしい。
「ね!君って一年だよね?」
椅子に座りながら、玲二が好奇心旺盛にその子に確認する。
「は、はい!俺、一年の篠島夜壱って言います」
「へー篠島くんかぁ~。一年にイケメンがいるって噂で聞いてたんだけどさ、絶対君のことだろ」
「え……」
「確かにそんな感じするね。一年だけど何かモテオーラがあるもん」
「そ、そんなこと……!」
「あるある!君カッコいいから、もっと自信を持ちたまえよ~」
「あ、有り難うございます。だけど先輩たちの方がカッコいいと思います。あ!俺去年のここの学園祭来たんですけど、その時に萩生先輩を見かけたことあるんです!」
「え!学園祭来てくれたんだ!そっか~!楽しめたかな~?」
「は、はい!」
もっとクールな感じの奴かと思ったら、話してみるとそんな感じではなく、とっても謙虚な子だ。仕切りに恐縮していて、食べる動作もぎこちなかった。
既に食べ終えていた俺たちは、篠島くんにバイバイして席を立とうとした。
「あ、あの先輩!」
「うん?」
「俺が言うのも何ですけど、本当……風邪引かないで下さい。ごめんなさい!」
「うん!大丈夫!んじゃな~」
「ま、またっ!……話しかけても良いですか!?」
「全然いいよ~!」
「あ、有り難うございます!」
……これは初々しいと言うのかな。
俺よりも背が高くて美形なのに、幼い感じがして可愛いと思った。
そう思いながら玲二と一緒に学食を後にする。
「先輩だって~」
「僕たちにも後輩ができたね。制服もまだ新しくて、学食にも慣れてない感じだった」
「去年の俺たちもそんな感じだったな~。すぐ玲二と友達になれたから良かったけど、一人だと学食もドキドキだもんな」
「あの子、詩のこと知ってたね。萩生先輩って苗字知ってたし。誰から聞いたのかな?それか……詩って有名~!学園祭といえばメイド服……メイド詩を見かけちゃったかな!」
「そっか、ワッフル買ってくれたのかな?そんなこと言って、メイド服は玲二くんの方が似合ってたぞ。あれで玲二ファンも増えたって聞く。ふふふ」
新入生から先輩と呼ばれて、少しくすぐったさを覚えたけど、もうあの日から一年経ったんだという実感が沸いてきた。
……ご飯粒食われたっけ……
三年の先輩達から見たら、ピカピカの一年生だった俺たちは、とても幼く見えたんだろうなぁ……なんて思いながら。
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