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第422話
夜壱
……
……
ああぁ……
一人で学食になんて来るんじゃなかった。
潤と来ればよかった。潤は今日は腹が痛くて休みだった。
いや、来てよかったのか?
いやいや……っ!
あれは……さっきの印象最悪だろ……
まだ慣れない学食で、緊張しながら何とか食券買って、トレイ持って並んで……あんまりキョロキョロしてるもみっともないし、見られるのも恥ずかしいから、開いてる席だけ目指して席に着いたんだ。
は~~これで落ち着いて飯が食える。
そう気を抜いて水をごくごく飲んでいる時、ちらっと隣を見てしまった。
くりっとした瞳が俺を見ていて、それが誰か分かるまで、一瞬だけど時が止まった。
マジで止まった。
そこで堪えれば良かったのに、そう思った瞬間やってしまった。
噴いてしまった……っ!
思いきり萩生先輩に水をぶっかけてしまったああああぁぁぁ……!!!
し、死にたい……死にたい。
俺、死にたい。
消えてなくなりたい。
何してんだ~俺!
憧れの先輩の顔面に水噴いたんだぞ。
しかも初対面。第一印象最悪だろ……終わったわ~!
口の中の水、全部噴いてしまった。
「……し、死にたい…………」
賑わう学食の中、すっかり食欲の失せた俺は一人ぼーっと立ち去った萩生先輩の事だけを考えていた。
……席は一つ空いてたけど、まさか隣に座ってたなんて……
ドキドキが止まらない。
あー!
うわーー!!
スゲー目がくりっとしてて可愛かった。顔小さかった!
それにあんなことした俺にスゲー優しいかったし、怒らないでくれたなんていい人過ぎる。
喋り方も性格も雰囲気通りイメージ通りだった。
それに濡れた前髪がおでこに張り付いてた……
ワイシャツも濡れて少し透けてた……
てんぱってたのに、そんなところは鮮明に覚えている俺って……俺って!最低終わってる!
「あーーー」
頭をくしゃくしゃしながら、席を立つと目の前にいた女子たちと目があった。
直ぐに逸らされて小さくキャーキャー言ってる。
煩い……お前らに興味ねぇし……
してしまったことを取り返すことはできないけど、この件で暫く俺は落ち込むだろう。
先輩に会いたくて、この学校に入ったんだから。
憧れの先輩とはもっと違う形で接触したかった。
こんな初対面……何回考えても死にたい……
でも……
声かけていいって言ってたな。
そう言った時の萩生先輩の笑顔は、マジ爽やかでキュン死しそうだった。
……あの笑顔、酷く可愛すぎた!また見たい!
出会いは最悪になってしまったけど、俺の胸のドキドキはいつまでもとまらなかった。
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