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第451話 *
霧緒
「ありがとうございました」
「ご馳走様~」
夜も更けたのにも関わらず、店内はこの時間でも人は多い。
駅から離れているのに、人が途切れず出入りがあるのは、ここの珈琲が美味いのと、店内の居心地の良さがあるからだろう。
多めの観葉植物と、明るすぎず温かみのある照明と落ち着いた内装で、個人的にも好んで利用していた喫茶店だった。
詩が来るまでもう少しか……
そう思いながらテーブルを片付け、セッティングする。
接客が面倒くさいのもあって、はじめはキッチンを希望けれど、気がついたらホールメインにさせられていた。「カッコいい宮ノ内くんがいると儲かるね。無表情でもいいから接客してみようか」笑顔でマスターに言われ、嫌々ホールの仕事をしていたけど、これはこれで色々勉強になるなぁと感じ今に至る。
まぁ、当然俺目当ての客もいて、声をかけられたりもするけれど、前よりもイライラせずに対応でき、割り切れている自分がいた。
積極的に声をかけてくる奴、ジッと熱い視線を送ってくる奴と様々だけど、面白いことに女からではなく、男からのアプローチも少なからずあって驚いた。
……きっも……
毎回そう思わずにはいられない。
対応はちゃんとするが、無表情でもいいと言われているので、笑顔ないこのままでいるのにも関わらず、熱心に通いづつけてくる奴がいるから意味がわからない。
「そういう宮ノ内くんの塩対応に萌えるんじゃないの~?いいじゃんいいじゃん」
オールバックにしたマスターはノリノリで楽しんでいるようだった。
この顔に生まれて幸せだと思ったことは殆どない。
常に注目を浴びるし、面倒なくらい他人が寄ってくる。
この顔を利用して、女をとっかえひっかえし憂さ晴らしをしていた時もあったけれど、今思うと虚しくなるくらいの黒歴史だ。
ここのマスターも顔が顔が言ってくるけど、気持ちがイイくらい直球だし、しかも狙いは俺じゃなく、店の売上だから拍子抜けしてしまうくらい嫌悪感はなかった。
やれやれ……カッコいいも正直言って疲れる。
……
でもこの顔を気に入ってる奴が一人いてくれるから、俺はそいつの為にカッコ良くいたいとは思っている。
見つめた時、あいつがあわあわと慌てる姿をずっと見たいからな。
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