463 / 506

第463話 *

霧緒 「…………ふぅ」 駅前の書店で、買う気もない今月の新刊を一つ手に取り、あらすじに目を通しながら小さくため息をついた。 ふと斜め前に立っていた女が、こちらを見ている気がしたので、ちらりと視線を向けると、パチリと目が合う。 パッと直ぐに視線は反らされたけど、彼女の耳は真っ赤になっていたので、少し前から俺は見られていたのかもしれない。 ……そう。 そういうのは慣れている。 見られることは気持ちの良いものではないけれど、小さい頃からつきまとって来た事だし今さらだ。 ま、俺ってモテるしな。 ……本当モテるんだよな。 もし俺がその気になれば、きっと女なんて作りたい放題だろうし、ハーレムでも作って遊びたいだけ遊んで、散々貢がせて使い捨てできるだろう。 金持ちのヒモになるのも有りか……それはそれで立派な酷い遊び人になれるだろうな。 …………あームカムカしてきた。 興味のない新刊を本棚に戻し店を後にした。 ……馴染みの駅前の景色を眺めながら、先ほどのチープな考えを思い返す。 誰得だ?それ。ハーレム作って誰が楽しいんだ?俺か?俺得か?ヒモになって?それ楽しいのか? 「……くっそ」 独り言を吐き捨て、歩きながら自宅へと向かう。 今日は詩が家に来る予感がして、用事もないのに家を出てきてしまった。 ……何となく……顔を合わせづらい。 あーあの時、昨日の帰りに俺が余計なこと言ったばかりに詩を怒らせてしまった。 知らない男の登場(しかもイケメン)にイラついて、大人気ないセリフを口から吐いてしまった。 詩が自分に向けられた好意に対して鈍感なのは知ってるし、それを責めても困らせるだけなのにしてしまった。 ……あの時、一日中こいつと一緒にいたのかかと思ったら、冷静になれなかった。ただ腹が立って仕方がなかったんだ。 自分で出掛けて良いと許可した筈なのに、この有り様だ。 猛ダッシュで走り去る、運動神経抜群の恋人に追い着く事なんて出来ないし、ただ走り去る後ろ姿を見送るだけだった。 あの時言われたことは別として、言い過ぎたことに関してはちゃんと謝らないとな。 こんなことで喧嘩してる場合じゃないし。 報告することもあるし、詩に聞いてもらいたい話もある。 そう思いながら家に帰ると、玄関に見慣れた靴が一足。 …………

ともだちにシェアしよう!