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第474話

夜壱 「……でも、俺がこの先、宮ノ内さんよりもいい男になって、萩生先輩が俺に靡いても文句言わないで下さいよ。ま、まだ……俺、高1のガキすけど……」 「……は?お前本気で言ってんのか?」 「……ほ、本気ですっ!」 「…………」 「すみませーん」 「はい」 店の奥のテーブル席から呼ばれ、宮ノ内は奥へと行ってしまった。 宮ノ内が視界から消えたことにより緊張が解け、思わず長いため息が出てしまう。 はぁ~何やってんだよ俺。こんなことしなくてもいいのにさ~自分のしてる行動が良く分からない。 「ははは、君面白いね~」 「……」 声がした方を見ると、お店のスタッフさんが楽しそうに笑っていた。 おじさんだから、もしかしてここ店長かな?オールバックにした黒髪が良く似合っていて、一見恐そうだけど、笑顔に愛嬌がある。 「ごめんね。会話ほとんど聞こえちゃった。聞くつもりはなかったんだけど、僕は地獄耳らしくてさ」 「……はぁ」 「あの宮ノ内くんに宣戦布告って感じだね。君も十分カッコいいから自信持ってよ!」 「……ありがとうございます」 「何だか青春って感じだよねー!うーん君くらいなら、是非うちのバイトにスカウトしたかったけど残念だな。次の子決まってるし、今はスタッフ募集してないんだよね」 「え、えと、すみません。俺部活してるし、バイトする気ないんで結構です」 「あははそっか!何部なの?」 「バレー部です」 「へー!バレー部かぁ!背高いもんね。カッコいいな!僕はこう見えて、柔道部だったんだよ。地味だしモテなかったんだけどそこそこ強かったんだよ~」 「は、はぁ……」 「恋のライバルにわざわざ会いに来て宣言するなんてさ、その行動だけでもいい男だと思うよ。カッコいいよ」 カッコいいっておじさんに言われても微妙だったけど、空気をよんで微笑んでおいた。 言いたいことは言えたから満足だ。 珈琲を飲み干してから席を立つ。 「ご馳走さまでした」 ブレンド一杯のお金を支払う時は、宮ノ内が会計をしてくれた。 「珈琲苦手ならもうここ来なくていいぞ」 「……お、お客に対して酷いこと言いますね。珈琲美味しかったです」 「こら、宮ノ内くん。そんなこと言わないの」 「俺ここ今月で辞めるし、来てももういないからな。しっし!」 「え、そうなんですか」 会計を済ませると、店のドアを開けてくれ宮ノ内も一緒に店の外へと出た。 「あのさ、悪いけど……」 「……」 「あいつはやれない。お前にも、他の誰にもあいつが靡くことはないから」 俺を見る無機質な瞳は冷たくて、感情がなかった。 「……スゲー自信すね」 「んなこと、当たり前だ。それくらいの気持ちで縛り付けておかないとなんだよ。あいつは危なっかしいんだ。それに……」 「……」 「あいつ、俺のこの顔大好きだから、お前に勝ち目ないぞ」

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