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第476話
夜壱
なんで……
「なんで……」
思ったことが、口からわなわなと零れた。
暑い夏休みに入って毎日部活に勤しみ、お盆も過ぎ、後数日で学校が始まるという事実に憂鬱さを覚える今日この頃。
俺はあの喫茶店を訪れていた。
そして来て直ぐ、二度と来ないと決めた決意は一瞬で崩れ去った。
「いらっしゃいませ!」
明るい笑顔で冷えた水を出してくれた店員さんは、白いワイシャツに黒いパンツ、ダークブラウンのエプロンを身に付けていて、エプロン姿が超似合う!
目の前にいる店員は、萩生先輩だった。
混乱する自身の脳ミソが一番に理解させたのが先輩のエプロン姿可愛い!だった。
「萩生先輩っ!こんなところで何やってるんですか!」
「あはは、何ってアルバイト」
「バイトって……先輩が始めるって言ってたバイト先、ここだったんですか」
「へへ、そうなんだ!まだ見習いだけどね。あ、何にいたしますか~?」
「……アイスコーヒー」
「はーい!少々お待ち下さい。ゴメン。霧緒にさ、篠島にはバレるまでここでバイトしてることは秘密にしておけって言われたんだ」
あ、あの野郎ーーっ!!
このこと知ってて、ここに来るなって言ってたのか!!
なんて奴だ!
萩生先輩がバイト始めるかもっていう話は、学校やメッセージのやり取りの中で聞いていたけど、何処でやるとかの詳細は聞いていなかった。
もうここには来ないって言ったけど、先輩がバイトしてるってなったら話は違う。
通う!絶対通う!
「先輩、週何日入ってるんですか」
「ん?週3くらいかな」
「……もう~!教えてくれてもいいじゃないですかー!」
「あはは、ゴメンゴメン!これからはたまに来てよ!」
先輩の爽やかな笑顔が可愛い!たまにじゃなくて毎日行くよ!
まだ日が浅いからか慣れない手つきで接客している様子はぎこちないけど、一生懸命仕事をしている先輩の姿はハッキリ言って動画に収めて眺めたいくらい萌える。
そして、あ~!エプロン姿がやっぱりいいなぁ~。
宮ノ内は腰エプロンだった(それがまた良く似合ったからムカつく)けど、先輩が着ているのは胸からのエプロンだ。
「先輩って……キッチンもやるんです?」
「ん?一応ホール担当だけど」
「エプロンが宮ノ内さんとしてたのと違うから」
「あ、これ?これは店長が……」
「詩くんは胸当てエプロンの方が絶対似合うと思って、前もって用意しておいたんだよ」
わ!出た!現れた!地獄耳の店長!!
「え、そうなんですか?」
「そうだよ。僕のイメージ通り良く似合ってるし、宮ノ内くんと違ってとっても愛嬌あるから期待しちゃうなー!」
「期待って何を……」
「そりゃ売り上げに決まってるでしょー!可愛い子が接客してくれたら、また来ようって思うでしょ?ご新規さんが増えるよね!儲かるよね!」
店長はそう言いながら、とても嬉しそうに笑っていた。
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