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第479話

霧緒がイギリスに旅立ってから俺は喫茶店でのバイトに勤しんだ。 最初はちゃんと働けるか心配で緊張したけど、店長さんが丁寧に教えてくれるし、慣れてくると接客も楽しい。 勤務時間は17時~21時にしてもらって、バイトがある日の夕食は、ばあちゃんが用意してくれることになった。 本当は家から一番近いコンビニでバイトしようかなって考えてたんだけど、過保護な霧緒がここを勧めてくれたんだ。 変わった店長だけど信頼はできるって言ってた。あと霧緒が話したのか確認はしてないけど、俺たちが恋人同士っていうのも知ってるみたい。 「萩生くんの可愛さと明るさは接客向きだねー!その笑顔でお客様の心を鷲掴みしてね!あ、詩くんって呼んでもいいかな?」 「はい!え、はい!どうぞ呼んで下さい!」 「ありがとう!詩くんよろしくね!」 「よろしくお願いしますっ!」 店長の笑顔もとっても素敵です~!と思いながら挨拶した。 ここで働き始めると、辞めた霧緒の話題がちょいちょいお客さんから入ってくる。 「え、嘘ー!あのイケメン辞めちゃったの?残念なんだけどー!」 「そうなんですよ……やっぱり残念ですよね……」 「……」 「あんなクールなカッコいいお兄さん、なかなか……なかなかいませんもんね……」 「……そ、そうね。確かにクールな感じだったわね。愛想はなかったんだけど、凄いイケメンだったからこっそり目の保養にしてたのよ」 「そうだったんですね。うーん……俺はあんなイケメンの代わりにはなれないから……何かすみません」 「……ぷ……すみませんって。えーとあなた新しく入ったバイト君ね。高校生?」 「は、はい!そうです!今高2です!この時間帯に入らせてもらってるんですけど、よろしくお願いします!」 「ふっふふ……君はあの子とタイプが違って笑顔がいいわね!頑張って~!そうね……じゃぁこのダブルチーズケーキてブレンドをお願いしようかしら」 「はい!ありがとうございます!少々お待ち下さい!」 霧緒目当ての客が何人もいたから、その度に心の中でだけど腹パンを喰らわせてやった。あんなに無愛想だったのにも関わらず、惜しまれる程の人気って……全くもう! さすが俺の彼氏だっ! だけどお客様と話してみると皆この喫茶店に愛着があるみたいで、こんな新米のバイトの俺にも親切に対応してくれるから嬉しかった。 「へぇ~あのお客様からスイーツの注文いただけるのってレアだなぁ~詩くんやっぱりいい感じだよ~!」 「はいぃ?」 えーと、何か今褒められた?

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