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第486話
玲二
はぁ~驚いた。
こんにちは、お久しぶりでーす。
屋内玲二です。
もう……さっきはびっくりしたぁ。
詩ったらついにご乱心したのかと思った。
手を振る篠島目指して、一心不乱に掛けていく姿を見て、まさかと一瞬思ってしまった。
仲がいい後輩の篠島の胸に飛び込んで、抱き締めて欲しいのかと思った。
最近の詩はおかしかったから。
宮ノ内先輩がイギリスへと飛び立ってからの詩は、元気一杯のいつも通りの詩だった。
学校でもプライベートでもいつも笑顔だし、始めたバイトも元気にこなしていて、充実している様子だったから、僕も特に心配はしていなかったんだけど、詩の違和感に気がついたのは一月ほど経った頃だ。
僕が詩に声をかけるとき、ぼーっとしている時があるんだ。
遠くを見るように、空を見ているように。
小さくため息もつく。
気だるそうにしている詩は、まるで自分がこの世に独りぼっちであるよう気配を消していた。
詩はクラスで目立つタイプではないけど、クラスメートから人気がある方だと思う。
明るく優しい彼がアンニュイな表情を浮かべることは今までほとんどないから詩のことを普段から見ている僕やなっちは彼の違和感に気がついたんだ。
もしかしたら詩に密かに好意を持っている奴も気付くかもしれないドキっとしたかもしれない。
彼がため息をつくとき、普段見ることが出来ない艶というか色っぽさがあったから。
それはきっと恋人が憤慨するくらい他人には見せたくない一面だろう。
詩は好青年だし僕好みの可愛い顔をしている。
爽やかで優しい性格で体格が僕に似ていたから一年生の時、隣同士の席になった詩と友達になりたいって思ったんだ。
彼の優しい明るい笑顔は日向ぼっこしているみたいにあたたかく癒される。
その笑顔が無理をしている笑顔だと僕が気付いた時は切なくて抱き締めてあげたかった。
当人に自覚ない。笑っているのに、何故か寂しそうで、どうにかしてあげたいって思った。
少し痩せたし目を離したら迷子になってしまいそうで不安になる。
原因は分かっているのに本人は認めないし、頑張ることをやめない。
立ち止まって素直になればいいのに、がんばり屋な親友はそんな事さえ思いつきもしないようだ。
抱き締めてあげると少し落ち着くみたいだから会うたびにハグをした。
数ヶ月間、恋人がいないだけでこんなに?
原因は絶対ここにいない彼だ。
明るいほんわかな親友を支えていたのは親友の僕じゃなく、恋人の宮ノ内先輩だった。
そう思うと先輩にちょっと嫉妬する僕がいる。
もう……なんか悔しいなぁ。
そしてそして!親友が無自覚に張り詰めていた緊張の糸を容易く切ってくれたのは、意外にも宮ノ内先輩似の凛々しいワンコだった。
ワンコに嫉妬する気力もなくなるくらい、犬を抱き締め、ぐしゃぐしゃになって泣いている詩がいて、それを見ていたらホッとしたし、僕も一緒に泣きたい気持ちになった。
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