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第491話
霧緒の迎えには、俺と汐里さんの二人で空港に向かった。
霧緒のお母さん、友子さんは家で赤ちゃんとお留守番だ。
「待ちに待った霧緒くんが帰って来るね。今の気持ちはどうかな詩くん?」
「何か……とっても緊張します」
「ふ、可愛い……抱き締めてもいい?」
「ダメです汐里さん。あの、スミマセン。俺余裕ないんで、俺のことからかっても気の効いたこと返せないです」
「うわぁ詩くんったら酷い。俺のことなんてどうでもいいんだー!」
「汐里さん、時間まだですか?この人達ロンドンから来た人達かな」
「…………そうだねぇ。時間的にそうだと思うから、もうそろそろ出て来るんじゃないかな」
「そ、そっか」
沢山の人の中から霧緒の姿を探した。観光や仕事、様々な目的があって日本に訪れただろう人達はそれぞれの場所へ散っていく。
どこだ?どこにいる?あの人か!?あぁ……違った。
そんなことを何度も繰り返す。
そしてその中に彼はいた。
視界に捉えた瞬間、胸のドキドキが止まった気がした。
背の高いあいつは立ち止まり周囲を見渡す。
そして気がついた。視線と視線が合うと、懐かしさが一気に溢れてきて、今までの緊張がふっ飛んでしまう!
「わーーーーっ!!」
バッと手を上げて謎に叫んでしまったー!
ぶんぶん手を振って、こっちだよって心の中でいっぱいいっぱい叫んだ。
イケメンの帰国じゃーー!
霧緒が帰って来たぞーーーーっ!!
こっちに向かって歩いて来る姿は相変わらず隙がないカッコ良さで、コートを片手に持ち、ラフなパーカー姿なのにそれだけで絵になり、まるでモデルみたいだった。
「霧緒ーー!おかえ……っ!……!?ぶ……ぐぇ」
元気に声をかけたら途中から言葉にならなかった。つか声でない。え、何?って思った。
抱き締められてる!?
まさかここで!?
こんなところで霧緒に抱き締められるなんて夢にも思ってなかった。
こんなにも強く……
……息が止まりそうなくらい強く強く抱き締められていた。
えーと、どうしよ。し、死にそう。
幸せで死にそうじゃなく、違う意味でリアルに死にそう。
く、苦しいんですけど!!
「………………詩の……匂い……久々過ぎてヤバい………………」
「!?っ……っ!キっ……キリ……」
「……詩、ただいま」
「……っ!お、お、おか……っ!!く、苦……しっぬ!……っ!!」
ギブギブと必死に霧緒の背中を叩いた。
叩いてやっと離れた瞬間、肺に酸素が送られ止まりかけていた心臓が動き出す。
「っと……悪い。大丈夫か?」
「けほっけほっ!し、死……ぬから!やっと……やっと会えたのに死にたくないんですけど」
「こんなんで死ぬかよ」
「はぁ……はぁ……」
「……」
「お……」
「……」
「おかえり!!」
「ん、ただいま」
そう言ってからまた直ぐに抱き締められる。
周囲のこと何て全く気にせずだ。旅立つ時とはえらく違いませんかあなた。
再び強く抱き締められ、首筋に顔を埋められて思い切り匂いを嗅がれた。
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