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第492話

「あ~~ヤバ。……この匂い……ヤバいな」 「ちょっとちょっと?この体勢恥ずかしいんだけど。めちゃくちゃ周りの皆さんに見られてますよ~」 「……知るかそんなの。ほっとけよ」 そりゃこっちだって久しぶりの霧緒の腕の中だし、匂いだって思い切りクンクンしたいけど、ここは空港で公共の場でして、通り過ぎる老若男女がチラチラと俺たちのことを見て行くのだ。 「汐里さーん!ちょっと笑ってないで助けて!ほら霧緒っ!とりあえず車行こう車!」 「……」 「個人的にもう少し見ていたかったけどなぁ。まぁ続きは車の中でやってよ。おかえり霧緒くん」 「……汐里、いたんだ」 「酷い!その言い方酷いから!」 汐里さんへの態度は相変わらずだったけど、以前のような反抗的なものではなかった。 汐里さんは友子さんと結婚し、宮ノ内家の家族になった。留学のことも相談したりと色々お世話になっているらしい。 「荷物持つよ」 「いや、いい。これ持って」 そう言って、コートを手渡された。駐車場に向かうまでの間に向こうの天気の話や機内で何を食べたとか座席で何か見たかとかささいな会話をする。 「寒くない?コート着る?」 「ん、平気」 サラサラと霧緒の髪が冷たい風に揺れていて、見てるこっちが寒い。車内も冷えていて暖房が効くまで暫くかかりそうだ。荷物をトランクに積めて後部座に俺と霧緒が乗り込んだ。 「はぁ~~寒っ」 「やっぱり日本も寒いな」 「当たり前だよー!12月だぞ!風邪引くからコート着なって」 そう言いながら霧緒の膝にコートをかけてやると、霧緒が俺の肩にもたれ掛かってくる。 「…………あったかいじゃん」 「え!えーと、えーとっちょっと?具合悪いの?」 「……俺全然元気だけど、ちょっと機内で隣の奴が煩くて休めなかったから……このまま休ませて」 「えええ!?どういう……!」 「あははっ……詩くん動揺!ただ詩くんに甘えてるだけだって~!久しぶりなんだしね。あ、俺のことは気にしないでね!運転手はいないものと思って!」 「…………」 「そ、そっか。……良かった……」 甘えてるって……そうなら超嬉しいけど。霧緒が人前で甘えるなんてなかなかないぞ。相当疲れてるってことかな?それならそれできちんと休ませてあげないと。もたれ掛かる霧緒の身体をゆっくりと動かし膝枕をしてやる。 「こっちの方が休めるだろ。着いたら起こすから寝てていいよ」 「……サンキュー」 瞳を閉じた霧緒の横顔が色っぽくて自分の恋人ながら見惚れてしまう。整った眉は凛々しくて鼻筋はスッと通っていて改めて美顔を眺めてしまった。相変わらずの長い睫毛も美しい……い、いかん!うっかりヨダレが出てしまう! 霧緒のサラリとした髪を撫でると心がホッとする。霧緒だぁ……リアル霧緒がいる~!帰って来たー!ヤバい嬉しい。

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