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第9話*

霧緒 新学期が始まり…しばらくして気がついた。 俺の隣の椿家の部屋。 窓ごしにたまに覗く姿。 あの挨拶に来た中学生…っぽい。 あーいまはぴかぴか新一年生か。 どうやらすぐそこの部屋が彼の自室のようだ。 お隣りさんは自然と共存する生活のできる伝統的な日本家屋。 築何年だろうか…敷地内に植えてある木々は四季折々で今は桜が綺麗に咲いている。 レースカーテン越しだからたぶん向こうは気が付いていないかな。 俺が見てること。 見てるって言っても部屋が隣なのでわざと覗いてるわけではない…視界に入るのだ。 挨拶に来たときは顔がマフラーに隠れてたからよくわからなかったけど、顔が小さくてちょっと整った可愛い顔してるかな。 ある朝、寝起きでベランダにでると窓を開けるぴかぴか一年生と目が合った。 「あ」 「…」 ふーん、この子黒目が大きいな。 黒というより茶色の瞳と柔らかそうな茶色い髪。 少し黄色みがかった肌は健康的にみえる。 男だけど体格は細くてやっぱりまだ中学生って印象。 しばらく眺めてたら 「おはようございます」 礼儀正しくぺこっと挨拶してくれた。 へーちゃんと挨拶できる子なんだー。 もう起きてしばらく経つのかすでに制服を着ていた。 そのまま窓から離れようとしたので、 「おはよ」 と、声をかける。 お手振りのサービスつきだよー。 顔が赤くなってるのがおかしい。 そういえば…名前…なんだっけ? 「あのさー君、はぎ…なんだっけ?名前」 名前覚えるのは苦手。 「…はぎう うたっていいます」 うんうん、萩生くんね。 前はすごいかみかみにしゃべってたけど、どことなく落ち着いてみえるのはなんでだろう? こっちが素かな。 あーそうだそうだ、ついでにひとつ疑問だったこと聞いてみよう。 「萩生くん、この前挨拶来たときさ。獣ーって叫んでたよね。あれ俺のことだよね?なんでかな?教えて」 「え?」 あれーその顔覚えてないって感じだけど? 俺確かに聞いたし。 でもみるみる顔色が変わって青くなったり赤くなったりしてるから、思い出したかな? 目がとっても泳いだり死んだりしてるけど大丈夫? 獣って俺そんなにワイルドだったかな? そんなこと言われたことないから是非理由を聞いてみたい。 単なる好奇心。 ほれほれ答えろよ。 「ええと…なんていうか」 うんうん 「わんわん…ぽかったん…です…かね?」 ぴしゃっ … ?? はい? わんわん? わんわんって犬のこと? おいー! へらへら笑いながら言ってたけど馬鹿にされちゃった? さらにわからなくなったんですけど! 言い逃げされてるし俺。 なんなのあの一年生君。 こんなあしらわれたのはじめてなんだけど。 萩生詩…ね。

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