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第35話

折角だから ばあちゃんに挨拶したいって先輩が言うのでうちに寄った。 ちょうど夕飯の準備をしていたみたいで、ばあちゃんは割烹着姿だ。 「ただいまー」 「はーい、おかえり」 「こんばんは。ご無沙汰してます」 「あら!霧緒くん!こんばんは!あららまた一段と格好良くなったわねー!」 「いいえそんな…。いつも美味しいご飯ありがとうございます」 にこにこ笑う先輩とばあちゃん。 以前から交流があるって言ってたもんな。 「うちの詩がお世話になったみたいで本当にありがとうね」 「いえいえとんでもない。萩生君とてもいい子なんで仲良くさせてもらってます」 「そういってもらえると本当嬉しいわ。この子寂しがり屋だからこれからもどうぞ仲良くしてやってね」 「寂しがり屋じゃねぇし…」 「もっちーいなくて夜泣きしてるの誰かしら?」 「!し、してねぇしっっ!!!」 先輩の前で恥ずかしいこと言わないで!! あー!先輩にやにやしてるし!! もっちーってね実家で飼ってる黒柴なのよーとか先輩に吹き込んでるばあちゃん。 「そうだ!折角だからうちで夕ご飯食べていきなさい」 「え、いいんですか?」 「霧緒くんなら大歓迎よ。ねぇ詩?」 「あ、はい!どうぞどうぞ!」 「そうだわ!よかったら泊まって行ってね。お布団出しておくわ♪」 「ば、ばあちゃん!!?」 ばあちゃんと…あと先輩もとっても嬉しそうだった。 ******** * 嬉しい誘いを受けた。 一度帰宅し着替えて再び椿家へ。 萩生君もすでに着替え終わって夕飯の支度を手伝っていた。 「あのー俺…」 「先輩は座っててください」 「はーい」 大人しくしてるよー。 何していいかわからないし。 畳って気持ちいいよな。 古き良き伝統的な建物は魅力的だ。 和風建築…いいな… 不思議と心が癒される感じだ。 …… 今日菊池から聞いた話はとても不愉快だった。 恐らく緑川が裏で色々しているらしく一部の女子を巻き込んでの仕業らしい。 萩生本人はあまり気にしてないのか飄々とした態度だ。 萩生を突き飛ばしたヤツをぶっ飛ばして締め上げてやりたいなーなんて考えてると萩生が隣に座った。 「先輩食べよ」 にこって笑顔。 あ、それ可愛い。 目の前には美味しそうな和食料理。 ぶりの照り焼き 筑前煮 わかめときゅうりの酢の物 カブの浅漬け 汁物とご飯 「…超…美味しいです」 お世辞抜きに美味しい。 好き嫌いはほとんどない。 実際食べれればなんでもいいから、普段はほとんどが冷凍食品。 だって料理しようと思わないから。 知らない人が作った料理はもう受けつけない…無理。 「そうー!良かったわ」 萩生のばあちゃんは嬉しそうだ。 椿家での夕飯なんてはじめてだ。 椿家…萩生の母親とうちの母は同級生だったらしい。 とても仲が良かったと母さんが切なげに言っていたのを思い出す。 うちの親は健在だけど…。 萩生の両親は萩生が小さい頃に事故で亡くなったと聞いてる。 幼くして両親に先立たれた子供の心情など想像もつかない。 萩生本人擦れた感じもないし、しっかり育てられたんだろうなと感じた。 最近の子には珍しくしっかりすぎるくらい…な気がする。 最近の子って俺もなんだけどねー。 俺は色々だらしない…。 「萩君、兄弟とかいるの?」 「え」 「兄弟」 「えーっと…姉ちゃんが…」 「お姉さんかー」 「…二人ほど…」 「へー」 なんで顔がひきつってるの? 萩生のばあちゃんは面白そうに笑ってる。 「先輩、ご飯おかわりいる?」 「じゃぁいただきます」 「はい」 お姉さんとは喧嘩でもしてるかな? 萩生の口ずっと尖ってる。 何かそれも可愛いぞ。 「ご馳走様でした」 質の高い栄養を摂取させていただいた。 萩生は無駄なく動きなくすぐ食器を下げていく。 これは俺でもできるものねー。 さすがにお手伝いしないと。 「洗い物俺やるから、先輩は食器拭く係ね」 「はーーい」 「あ、先輩先に二階上がっててもいいよ?」 「ん、大丈夫手伝い終わってからでいいよ」 「そか」 「うん」 キッチンを綺麗に片付け、二人で2階に上がる。 萩生の部屋はフローリングの洋室だ。 シングルのベッドの脇に布団一式がすでに運ばれて置いてあった。 「え!すごい邪魔!」 「じゃぁお布団返して一緒にベッドで寝ようか!?」 「やややや!だだだ大丈夫!」 「えーつまんない」 「先輩俺風呂入ってくる!」 真っ赤な顔した萩生は着替えを持って風呂に行ってしまった。 俺は家でシャワーしてきたしごろごろしながら萩生を待つことにしよう。

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