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第76話*
霧緒
玄関先で、詩に跪いてキスしてるくそ男に切れそうになった。
あいつのなんの悪気もない態度はまるで俺の反応を楽しんでいるようだ。
おまけに母さんまで詩に抱き着いて離れない。
…くそ!
とりあえず、詩んちでの飯は中断して、家で詳細を説明することになった。
明らかに俺の機嫌は悪い。
「まず、母親の宮ノ内友子 45歳。現在○○メーカーの商品開発責任者でイギリスに在中。
こっちが母さんの恋人の園田汐里 31歳。母さんと同じ会社の人。」
「えー酷い僕の説明。友子さんとこは商品の販売。そこの関連会社で住宅のお仕事やってんの」
ニコニコしながら汐里さんが言う。
「恋人…さん…だったんだ」
「あーうち俺が中学の時に離婚してるから」
「ん…ばあちゃんからちょっと聞いてた…。
はじめまして、萩生詩です。今、日ノ原高に通うために隣の椿家にお世話になっています。霧緒くんとは仲良くさせていただいています」
「はぁ…詩くん…冴子そっくりね…私それだけで胸いっぱい」
うっとり俺のことを見つめる霧緒のお母さん。
セミロングの髪がサラサラ綺麗で…顔は霧緒そっくり…いや霧緒がお母さんそっくりなのか!
「そ、そんなに似てますか?」
「似てるわー!若い頃を思い出しちゃうわね…霧緒が迷惑かけているんじゃない?この子色々だらしないから。本当ごめんなさいね」
「…なんだよ、その言い方…って詩に触んなよ」
ぐいっと引っ張られ霧緒の横に座らされる。
「あはは霧緒くん何か変わった?ちょっと前回会った時とイメージ違うねー」
楽しそうに汐里さんが笑っている。
「…うるさいな」
「あの俺…迷惑とかそんなことないんで。むしろ霧緒に勉強みて貰ったりしてるんで…逆に迷惑かけてたりしてます。すみません!」
「「…」」
「…霧緒があなたに勉強みてくれてるの?そんなことするの?」
「え」
「ふーん…面白いこともあるもんだね」
「え?」
「本当」
二人からの好奇な視線は霧緒に注がれていて、霧緒は凄く嫌そうな顔をしていた。
「あー!!詩!もう飯行こうぜっ!紹介は済んだしいいだろっ!」
霧緒に腕を捕まれ引きずられるようにぐいぐい引っ張られる。
「え、あ?ちょっとっと!霧緒!」
「一週間滞在予定だからー!」
「よろしくねー」
霧緒のお母さんと汐里さんがひらひら手を振っていた。
「一週間…地獄か…」
霧緒がチャーハン食べながらボソッと呟いた。
椿家の居間でやっとお昼だ。
「霧緒ーおばさんと会うの…凄く久しぶり何じゃない?」
「まあね…つか…せめて帰国するなら連絡くらいするもんだろ。抜き打ちで来るか普通」
「あははそうだね。俺もびっくりした。あ、でも玄関に俺がいてびっくりしたのは園田さんの方か」
「…詩、ご馳走さま。美味しかった」
「はーい」
「俺、詩ん家に泊まろうかなー。あの二人帰るまで」
「は?」
「どうせあいつら二人でイチャイチャするんだろうし!俺が詩ん家にいた方が向こうも都合がいいだろ?」
「え、え?!いやっ…でも!」
「よし、善は急げだ。あ、詩これ頼む」
「ちょ!霧緒!?」
チャーハンが入っていた皿を俺に預け、庭で花の手入れをしているばあちゃんに交渉しに行ってしまった。
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