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第84話

玲二 「あ、菊池先輩」 ある日学食に行くと、菊池先輩とばったり会った。 柔らかそうな黒い髪に黒い瞳、表情は優しく人懐っこい印象を受ける。 相変わらずカッコいい… 「お…屋内じゃん!ん~…一緒に飯食う?」 「はい!」 にっこり笑う先輩の笑顔が嬉しくて、一緒に昼飯を食べることになった。 「相変わらずあの二人はイチャイチャしてんのかな~?」 「今日詩、宮ノ内先輩の分のお弁当も持ってきてて、一緒に食べるって言ってましたよ」 「はーいいねー!青春だねー」 「先輩だって、青春真っ只中じゃないですか」 「んー俺って今青春してんのかなー。それよりも、屋内のレベルに近づきたい…な!」 「カンストしてください」 「!!酷い!!」 「あはは…レベル上げ手伝いますから」 「アリガト。でも寝不足は駄目だよ?屋内はクマできやすいからさー」 「いいんです。寝るのも惜しいんで」 「ゲームに関しては屋内さんはストイックだよね?」 「はい!だって楽しいんで!楽しくてやりだしたらとことんやっちゃうんですよね」 あんなに菊池先輩のこと苦手だって言ってたけど、今はそんなことなくなった気がする。先輩は威圧感がない。 身長差は多少気になるけど、こうやって話をしてると全然気を使わないし何より楽しい。 菊池先輩が人気なのもわかるなー。 こんな僕にも付き合ってご飯を一緒に食べてくれるんだから。 「あ!屋内くーん!!」 「?」 声の方を向くと、逢沢先輩だった。 目をキラキラさせている。 「屋内くんお昼何食べてんのー?」 「ええとオムライスです」 「そおか!………じゃ、俺もそれにしようかな!じゃぁまた!!」 これから昼飯なのか、逢沢先輩は食券を買いに行ってしまった。 「…………今の二年管弦楽部の」 「ええと、逢沢先輩です」 「ああ!そうだ!バイオリンやってるやつだ」 「菊池先輩…よく知ってますね…」 「俺記憶力いいからねー!……仲いいの?」 「同じ中学で、この間声かけてくれて。僕中学の時バイオリンやってたんですけど、その時のこと覚えていてくれたみたいで」 「え…屋内さん…バイオリンできるの?ピアノじゃないの?」 「ピアノも弾きますけど、バイオリンも弾けます」 「あ、そっか管弦楽だもんな。なんて恐ろしい子!でも、部活はやらないんだ?」 「………あ、はい」 「……ふーん」 「えっと、僕ゲームしてる方が好きで……凄い好きなんです!部活してると、当然そんなゲームしてる時間ないんですよね。特に管弦楽部は本当毎日忙しくて……帰りも遅くて……」 「うん」 「って言うと、部活よりゲームかよ!とかゲームなんてくだらないって馬鹿にされるんですけどね!あ、でも僕は決して音楽が嫌いなわけじゃなくて…ただ……ただ……」 うつ向いてしまう。 中学の時、友達に冷たくそんなこと言われた。 音楽の素晴らしさはもちろん知ってる。 でも僕にとってゲームしてる時間はとても大事で!音楽以上に楽しいんだ!! 「屋内はゲーム大好きだものね。いいんじゃない?好きなことってさ、人それぞれなんだし」 「…………いい……ですかね」 「いいって!俺が言ってるんだよ?だからいいんだよ~屋内くん安心しなさい!」 …… 菊池先輩が笑顔で言うと、不思議と本当みたいに聞こえて凄く嬉しかった。 はぁ…本当に嬉しいな。 嬉しい…… 「って…お、おい!屋内?ちょっと?」 「え?」 「なんで…泣く?!」 「?」 気がつくと、目から涙が零れてた。 「うわ?ご、ごめんなさい!こういうの人に話したことなかったんで、なんか僕、ぐす……つい嬉しくて…」 大した悩み事でもないのに、喋れば喋るほど涙が出てくる。 「わわわ!わかった!わかったから!落ち着いて涙を止めよう!ここ学食だから!きゃー皆が見てる!ほらー!ちり紙使え」 慌てる菊池先輩と泣いてる僕は目立ってしまい、周囲から注目を浴びてしまった。 一度緩んだ涙腺は中々止まってくれなくて、やっと泣き止んだときには僕の目と鼻は赤くなってしまっていた。 「女は泣かせたことはあるけど、男は初めてですよー!屋内くん!」 「す、すみません」 「まぁでも、泣いてすっきりしたかな?」 「はい」 「そりゃよかった。昼休みもう終わるし!また一緒に飯食おうな!」 菊池先輩の大きな手で頭をよしよしされた。

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